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スペインリーグ初の日本人オーナー、
坂本圭介が夢見る「和製欧州クラブ」。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byShinya Kizaki
posted2013/03/22 10:30
今は赤坂にオフィスを構える坂本圭介。バルセロナやレアル・マドリーの育成キャンプを誘致する(株)イープラスユーの代表取締役でもある。
バルサでは、クラブ内の派閥争いに巻き込まれ……。
だが当然ながら、世界有数の人気を誇るバルサは、簡単な相手ではなかった。坂本はすぐに壁にぶち当たってしまう。クラブ内の派閥争いに巻き込まれたのだ。
一般的にヨーロッパのクラブ内の花形は、トップチームに関わる仕事だ。育成に関わる人間は、どうしてもクラブ内で下に見られてしまう。だから、その中で少ない利権を巡って派閥が生まれ、意思決定のプロセスが複雑化する。バルサも例外ではなかった。
坂本は10回以上バルセロナを訪れ、散々たらい回しにされた結果、何とか公認のキャンプを日本で実施することはできたが、スクール設立は当初予定していた2012年には間に合わなかった。また、得体の知れない誹謗中傷を受け、キャンプの実施やスクールの設立をするうえで嫌がらせに近い妨害を受けた。
普通の経営者であれば、サッカー界特有のアバウトな商習慣に呆れて、ここで手を引いたかもしれない。だが、バルサ相手に奮戦したこと、正体不明の妨害を受けたことで、坂本の闘争心に火がついた。次はレアル・マドリーの育成キャンプを企画し、今度はスムーズに実行することができた。サッカービジネスに関しては素人だったにもかかわらず、約1年でバルサとレアルとのビジネスをやってのけたのだ。
指宿洋史の活躍も後押しし、サバデルの買収は一気に進展。
ところが、育成キャンプを重ねるうちに、ある疑問が次第に大きくなっていった。はたして自分は本当に子供たちの将来を考えて、キャンプを実行できているか、と――。
坂本はこう説明する。
「通信業界の仕事では企業を相手にするので、実際にお客さんが物を買って喜んでいる姿を見ることはありません。それだけにサッカーで子供たちが嬉しそうにしているのを見たときの達成感は本当に大きかったです。でも、せっかく小学生のときにキャンプで貴重な経験をしても、中学生より上の、次のステージにつなげる機会を与えることができていなかった。バルサ、レアル、ミラン、アーセナル、チェルシー、マンチェスター・ユナイテッドなどに代表される海外クラブのキャンプやスクールはすべて小学生が対象です。ヨーロッパで、スペインでプロになるためのプログラムを用意できなければ、何か無責任な感じがしてしまったんです」
どうすれば、子供たちの夢に報いることができるのか? そうやって頭を悩ませているときに訪れたのが、サバデル買収のオファーだった。
サバデルは財政難に陥り、そのままでは2部リーグのライセンスが剥奪され、強制降格させられる危機に陥っていた。クラブは新たな資金を必要としていたのである。
同時にサバデルでは、2011年に3部から2部に昇格したときに指宿洋史が大活躍しており、日本に対するイメージが極めて良かった。その2つの条件が重なり、坂本の買収案は一気に進展することになる。