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翼をもがれた“エアケイ”の死闘。
全豪オープンで錦織圭に何があった?
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byREUTERS/AFLO
posted2013/01/21 12:50
試合後半になると、幾度と無くひざを押さえる仕草をしていた錦織。最大の敵は、フェレールではなく、自らのひざだったのかもしれない。
小さな野獣――ダビド・フェレール(スペイン)の異名である。
世界ランキング5位で、この全豪オープンの第4シード。ノバク・ジョコビッチ(セルビア)など「BIG4」の陰に隠れて目立たないが、昨シーズンは男子ツアー最多の7勝を挙げた強豪だ。身長175センチは、巨漢ぞろいのツアーでは小兵。しかし、ガッツと体力、鉄壁の守りで、この地位を築いた。
錦織圭とは因縁がある。
これが4度目の対戦。錦織がデルレービーチ国際選手権(米国)でツアー初優勝した2008年、全米オープンで初めて対戦し、錦織に金星を献上した。2度目の対戦は'11年の楽天ジャパンオープン。アウェーの状況だったが、フェレールは錦織に牙をむいて襲いかかった。地元開催の大会で硬さのあった錦織は最後まで力を出せず、フェレールが完勝した。3度目の対戦は昨年のロンドン五輪。ここでは逆に錦織が第1セット6-0のロケットスタート。第4シードのフェレールは、3回戦敗退の屈辱を味わった。
シード順を見れば、第16シードの錦織は格下である。しかし、フェレールは当然ながら、過去1勝2敗の錦織を警戒していた。もちろん、敵を恐れて縮こまるような選手ではない。相手の力を認めるからこそ、牙を研いで身構えたのだ。
ひざに爆弾を抱えた錦織がもくろんだ試合運び。
一方の錦織。この大会は、痛めていた左ひざとの戦いでもあった。
前哨戦のブリスベン国際(豪州)は準決勝を途中棄権。全豪にはなんとか間に合ったものの、試合中にトレーナーの処置を受ける場面が何度かあった。ひざの皿の下には常にテーピング。初戦では予防のための細いバンドを巻いただけだったが、試合を重ねるたびに、厳重にテープが巻かれるようになっていた。3回戦のあとの会見でひざの状態を尋ねられた錦織は、短く「大丈夫です」と答えるだけだった。
勝負の鍵は立ち上がりにあった。
フェレールはそもそも「全ポイント全力」というタイプの選手。警戒している錦織が相手なら、最初のポイントから100%で挑みかかるのは当然だ。ひざに爆弾を抱えた錦織は、短期決戦を挑んだ。体力、守備力ではとてもフェレールに太刀打ちできない。リスクを冒して攻める。長いラリーを避け、1ポイントをできるだけ簡単に決着させる。そうやって、ひざへの負荷を軽くして、逃げ切ろうと考えたのだ。