テニスPRESSBACK NUMBER
翼をもがれた“エアケイ”の死闘。
全豪オープンで錦織圭に何があった?
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byREUTERS/AFLO
posted2013/01/21 12:50
試合後半になると、幾度と無くひざを押さえる仕草をしていた錦織。最大の敵は、フェレールではなく、自らのひざだったのかもしれない。
自らリミッターを外し、超攻撃的に打って出た錦織。
錦織は、リミッターを外していた。
普段は攻守のバランスを考えるが、この試合だけは別だった。様子を探る打ち合いはほとんどなかった。左右両サイドに深いボールを送り、相手を振り回す。内なる攻撃性を解放し、ポテンシャルをそのままボールに乗り移らせた。
フェレールの返球も恐ろしいクオリティだった。
錦織が攻め立てても、甘いボールが返ってこない。ベストショットを2本、3本と続けなければ、1ポイントが奪えないのだ。
濃密な、という形容が最もふさわしいだろう。ラリーの1本1本、1ポイント1ポイントに中味がたっぷり詰まっていた。この瞬間、全豪オープンのセンターコート「ロッド・レーバーアリーナ」の観客は、テニスの醍醐味をかみしめていたはずだ。
錦織が激しく攻めた序盤の4ゲームだったが、スコアはフェレールの3-1。抜け出すチャンスは錦織にもあったが、フェレールがそれを許さなかった。錦織はブレークポイントを4本逃していた。フェレールは大事なところで効果的なサーブをたたき込み、錦織は肝心なところでリターンからの攻撃が不発に終わった。
第1セット、第2セット……急激に悪化していった錦織のひざ。
スタートダッシュの失敗が錦織に重くのしかかる。
フェレールは快調にゲームを進め、錦織には焦りの色も見えてきた。このセット、錦織の「アンフォーストエラー」(自分から犯したミス)は22本に達した。フェレールは、わずか6本。錦織がリスクを冒して攻めた結果であり、両者のスタイルも違うとはいえ、この数字の開きは大きすぎた。このセットはフェレールが6-2で制した。
第2セット0-3と追い込まれたところで、錦織はトレーナーを呼び、左ひざの処置を受けた。動きは明らかに落ちていた。いつ、ひざが限界に達するのか、その不安も彼のストレスになっていたはずだ。
このセットは1-6。錦織の心が折れかかっているように見えた。
それでも、第3セットは見せ場を作った。思い切ったネットラッシュやトリッキーなプレーで観客を沸かせるシーンも少なくなかった。時折、ひざに手をやり、顔をしかめたが、なんとか気持ちを奮い立たせ、力を出し尽くそうと懸命だった。しかし、4-4からのサービスゲームを落としたことで、力尽きた。4-6で決着。全豪での2年連続の8強入りはならなかった。