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“昨年19位”と“予想外の強風”。
波乱の箱根、日体大の優勝を再検証。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byDaiju Kitamura/AFLO SPORT
posted2013/01/09 11:35
第89回箱根駅伝、復路の戸塚中継所にて。1位で襷をつないだ瞬間の8区・高柳祐也(左)と9区・矢野圭吾(右)。
日体大が来た。
まさか、まさかの箱根駅伝30年ぶりの優勝である。
3年生主将、服部翔大の山上りで往路優勝をつかみ、2位の早稲田大、3位の東洋大に2分30秒以上の大差をつけていたものの、復路メンバーの充実度からみて、東洋大が逆転するものと予想していた。
しかし、復路の7区で日体大の高田翔二(4年)が、2位を走っていた東洋大の高久龍(2年)に対して差を広げた時点で、「これは日体大が逃げ切る」と認めざるを得なかった。
往路優勝、復路も2位と、内容も見事な優勝で、取材する側としては不明を恥じるしかない。
改めて激闘を振り返ってみると、2つのポイントが優勝争いを左右した大会だったと感じられる。往路、復路ともに見ていこう。
想定外の強風で、スピードに優るエリートランナーが次々と失速。
今回の箱根駅伝、往路は強風という思わぬ難敵が出現し、競馬でいうなら「重馬場」での戦いになったと見る。各校とも3年生に実業団の選手に匹敵する力を持つ選手がいたにもかかわらず、区間新記録が生まれなかったのが象徴的だ。
往路の日体大の優勝タイム、5時間40分15秒は昨年ならば17位相当の記録。ひとりあたり2分から3分、余計に時間がかかったのではないか。
成り行き上、スピードのある学校には不利となり、スピードでは劣っていても粘り強い走りをする学校が上位に来るチャンスが生まれ、混戦の様相を呈した。
日体大の選手は15キロ過ぎからが粘り強く、安定した走りを見せて好位置をキープ、服部に首位奪取の御膳立てをした。
往路で一気にスピード勝負をかけていた、東洋大の大誤算。
最も風の影響を受けたのは、東洋大と駒澤大だっただろう(そして早大の3区、大迫傑)。
東洋大は2区、3区に設楽兄弟(ともに3年)を配して勝負に出た。
2区担当の兄・啓太は日本人トップの区間3位、3区の弟・悠太は区間賞を獲得したが、ともに想定タイムからは程遠く、スピード勝負に持ち込むことが出来なかった。これが、まず大きな誤算だった。