日本代表、2014年ブラジルへBACK NUMBER
「勇気とバランス」をスローガンに!
ザックが2つの言葉に込めた真意。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2013/01/06 08:01
2013年のザックジャパンは2月6日の親善試合、ラトビア戦で始まる。早ければ、3月26日のヨルダン戦でW杯出場が決定する可能性もある。
ブラジル戦を「勇気とバランス」で分析すると……。
ブラジル戦、日本は全体をコンパクトに保った上でスピーディーなパスサッカーを展開したが、鋭いカウンター攻撃の餌食となり0-4という大敗を喫している。腰を引かない立ち上がりの戦いぶりを「勇気を出してくれた」と評価しながらも、指揮官はバランスの欠如を大量失点の要因に挙げた。
「ブラジルのカウンター攻撃に晒された理由はふたつあって、裏へのチョイスが足りなかったことがひとつ。そしてもうひとつは“攻め急ぎ”だと考えている。このチームは私の性格にも少し似ていて、決して負けたくないという気持ちを強く持っている。あきらめない気持ちは大切だが、リードされたことで何かをしてやろうという思いがあまりに強すぎて、個人技に走る傾向にあるように思う。個人技に走ってチームプレーを軽んじては意味がない。
そこで大切になってくるのが『バランス』という項目だ。リスクマネジメントをきっちりと図っていく必要がある。勇気も大事だが、同時にバランスも大事だということだ」
現代サッカーのトレンドにおいてチームを攻撃型、守備型と分けることはあまりない。どちらも一流でなければ、世界のトップでは戦えないのだ。つまり「攻防一体」を戦術的に意識させることにおいても、「勇気とバランス」という言葉は上手くはまっている。
ザッケローニは、カタール戦での伊野波の「勇気」を称賛。
また「勇気とバランス」にはジーコに代表される「自由」、トゥルシエに代表される「規律」の要素も入っている。「バランス」はチーム戦術を遵守する意識に重点が置かれているように思えるが、「勇気」には展開次第でチーム戦術を壊すことも含まれるからだ。
少し話は古くなるが、2011年1月のアジアカップ、準々決勝のカタール戦を例に出したい。
終盤、ディフェンダーの伊野波雅彦が右サイドを上がっていって、決勝ゴールを奪った場面があった。「なんであそこに(伊野波が)いたのか分からない」とキャプテンの長谷部誠は苦笑いしていたが、空いていたスペースをチャンスと見てとって伊野波は猛然と駆け上がったわけだ。「バランス」を考えるなら上がらなくていい状況で、自分で判断して「勇気」を出したことが得点につながった。ザッケローニは伊野波のこの「勇気」を称えたという。
つまり約束事はあっても、ピッチでは自分で責任を持って判断を下していけばいい。約束事で縛っているわけではないのだ。ザッケローニは選手たちの判断を尊重する指揮官としても知られている。「勇気」の奨励には、オシムの言うところの「考えて走る」というエッセンスや、岡田のアグレッシブにファイトさせる姿勢も組み込まれている。日本代表のこれまでの経験と伝統が「勇気とバランス」に集約されているようにも感じてならない。