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即渡米してメジャーへ到達した男。
田澤純一の今季に注目せよ!
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byGetty Images
posted2013/01/07 10:30
メジャー屈指の育成システムを持つボストン・レッドソックスで育てられた田澤。不運なヒジの故障もあったが、手術成功後のリハビリも順調で、完全復帰してからは術前よりも威力のある球が投げられるようになったという。
大谷の参考になるのは田澤と多田野のふたりくらいか。
結局のところ、大谷のようにドラフト1位指名が有力だった選手が即アメリカへ渡った例は、田澤ぐらいしかいないのだ。あえてもうひとり挙げるならば、日本ハムの多田野数人だろう。多田野は田澤ほどの活躍はできなかったが、インディアンス時代、2年目にはメジャーで50イニングスを放っている。
1位指名レベルの選手がNPBを経由せずにアメリカに挑戦した場合、“メジャーまでたどりつける確率”が、現時点では百パーセントということになるのではないか。
実は、以前このコラムで「大谷は日本でプレーしてから渡米しても遅くないのではないか」という持論を展開した。だが、それは日本の育成プログラムの方がメジャーのそれよりしっかりしていると思ったからではない。単純に、大谷が日本でプレーする姿をもっと見たかったからだ。
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そもそも現段階では、厳密な意味で大谷が参考にできるデータは2例しかないわけだ。いや、田澤が社会人出身、多田野が大卒であることを考えると、ほぼないに等しい。
だから、推測することはできても、本来、日本とアメリカの育成プログラムを正確に比較することなどまだ誰にもできないはずなのだ。
「メジャートップ選手」の9人中7人がドラフト1位選手。
日本ハムの資料の中には、1995年以降、NPBを経てメジャーに挑戦した選手のリストもある。そのうち9人の選手を「メジャートップ選手」として認定しているのだが、イチローと黒田博樹(ドラフト2位)を除く7人はいずれもドラフトで1位指名を受けた選手ばかりなのだ。
このデータは「NPBでそれなりの実績を残した選手ほどMLBでも高い適応能力を発揮している」ということを示すものだが、やや乱暴かもしれないが、「ドラフトで1位指名を受けるような資質を持った選手は、やはりアメリカでも通用するのだ」ということを表しているのだと言えなくもない。
となると、ここでもまた「日本でやった方がいい」式の言い方は躊躇せざるをえない。
日本ハムは大谷を入団させるために、ある面では、この資料をうまく使ったのだと思う。それは球団の一種の「営業努力」であり、何ら非難されることではない。
ただ球界全体が、大谷が日本ハムを選択したことで、今後、トップクラスの高校生はしばらく「高卒、即アメリカ」と言い出すことはないだろうと考えるのは早計だと思う。今回は、あくまで日本ハムの勝利であって、日本球界が勝利したわけではないのだから。