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大谷獲得は糸井の流出に備えて?
日本ハム打線の“近未来予想図”。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/12/12 10:30
12月9日、日本ハム入りを正式表明した大谷翔平(右)は栗山英樹監督と笑顔で握手。
二刀流は消滅し打者一本のプレースタイルに……?
投手か野手か、という視点が抜けていた。大谷が投手にもこだわっている以上、投手をやらせないわけにはいかない。プロ野球選手としてのモチベーション(動機づけ)が大谷の場合、二刀流にかかっている。モチベーションという言葉は生易しすぎるかもしれない。アイデンティティ(自分は何者かという問いかけ)と言い換えてもいい。
ほとんどの野球評論家は「一軍で早く使えるのは打者」と言うが、私は投手のほうだと思う。単純に野手はポジションが埋まっているのに対し、投手は数を必要とするからだ。
技術面に注目すると、ストレートを投げるときだけではあるが、早い左肩の開きがなく、下半身を目いっぱい使えるなど、投球フォームに悪い部分がない。ただ、ライバルの藤浪晋太郎(大阪桐蔭→阪神)にくらべると、変化球の精度で劣る。具体的にはストレートのときと微妙にフォームが変わるのだ。
スライダーを曲げたい、フォークボールを落としたいという欲求が、打者を打ち取るという欲求を上回っているように見える。藤浪の場合は打者を打ち取るというのが優先順位の筆頭にあり、「スライダーを曲げたい」とか「160キロのストレートを投げたい」という欲求がない。ふたりには、意識に大きな差が感じられるのである。
それでも一軍では投手としての起用が早いと思う。そして起用が早いために挫折も早く訪れる可能性も高く、自然と二刀流は消滅して打者一本で行くというプレースタイルが出来上がっていく。それが大谷にとっても日本ハムにとってもベストの道だと私は信じている。
大谷が糸井に代わってクリーンアップに入った近未来の日ハム打線。
打者としての素質にも触れると、素晴らしいの一言。'12年の選抜では1回戦で優勝した大阪桐蔭と激突し、第1打席、ボールカウント2-2から投じた藤浪の116キロスライダーを甲子園球場の右中間に放り込んでいる。
パチンと出会いがしらに打った打球ではなく、緩急で攻められた末のスライダーを捕手寄りで捉えて、バットに吸着させたような状態から押し込んで運んだのである。打った相手を考えても第一級のホームランと言わないわけにはいかない。
この大谷が糸井に代わってクリーンアップに入った近い将来の打順を想像してほしい。
1番 陽岱鋼(中堅手)
2番 西川遥輝(二塁手)
3番 大谷翔平(右翼手)
4番 中田翔(左翼手)
5番 小谷野栄一(三塁手)
6番 稲葉篤紀(一塁手)
7番 ホフパワー(指名打者)
8番 中島卓也(遊撃手)
9番 大野奨太(捕手)
稲葉、小谷野たちベテラン・中堅に代わって杉谷拳士、谷口雄也、近藤健介たち20歳代前半の若手が入れ替わることも考えられる。この可能性を秘めた近未来打線も、大谷が希望するポスティングシステムによるメジャー挑戦を認める方向性なので、実現しても寿命は長くない。FA制度導入以降、主力選手ほどチームにとどまる期間が短いパ・リーグに宿命づけられた、パッと咲いてパッと散る打ち上げ花火のような打線ではないか。