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<気鋭の社会学者の現代ニッポン論> 開沼博 「皇居ランナーはなぜ生まれたのか」
text by
開沼博Hiroshi Kainuma
photograph byTamon Matsuzono
posted2012/12/06 06:00
アンケートで浮き彫りになった彼らの実態をもとに
現代社会のあり様を気鋭の社会学者が考察する。
好評発売中の雑誌Number Do『秋のランニング特集 忙しい人ほどよく走る!~あの人はいつどうやって走っているのか?~』より、全文公開です!
グーグルマップが出始めの頃、自分の家を探したり、観光名所を眺めたり楽しんだものだったが、何より印象に残っているのは東京都心における皇居敷地の広さと緑の豊かさだった。近代化とともにコンクリートに覆われていった都心において、あえて残された前近代。常に歴史の舞台となってきた場所でもあったが、今新たな舞台になろうとしている。
皇居ランナーへのアンケート結果で見える、現代社会のあり様。
皇居周辺がランニングの名所となって久しい。「おしゃれなランニングウェアが増えている」とか「ランナー向けロッカーができた」という情報を初めて聞いたときは一時の流行かとも思ったが、この「ランニングブーム」はだいぶ定着したようにも見える。
皇居ランナーへのアンケート結果からは、現代社会のあり様が見えてくる。
例えば、年代別に見た時に最も多いのは40代。かつてだったら、地位も給与水準もある程度上がり責任ある立場になった「働き盛り」の彼らが向かうのは、例えば、ゴルフとか、麻雀、あるいは家族を連れての旅行とかだったのかもしれない。もちろん、今もそういったことをしている人も多いのだろうが、そんな他の選択肢を踏まえた上でも空いた時間に皇居に向かうようになっているのはなぜか。
走る理由は、「達成感」「走るのが好き」「仲間の存在」が上位に。
走り続ける理由のベスト3を見てみる。
「走るの嫌い、ダルくなる」ような人はそこに行かないわけだから「走ることが好き」(2位)というのが上位にくるのは当然だ。ただ、それを「達成感があるから」(1位)と「仲間の存在」 (3位)が挟む形になっているのは興味深い。
「達成感」というのは「目的性」への志向と換言できる。人生は、様々な「目的性」の束でできている。昇進していくこともそうだし、転職して自分の価値をあげることも、あるいは幸せな家庭を築くことも、子どもを一人前にすることもそうかもしれない。何らかのゴールを設定し、そこを目指すことは、人生に充実感、「はりあい」を与える。