痛快☆ブブゼラ通りBACK NUMBER
32カ国中唯一のイスラム国家チーム、
アルジェリア代表の狂乱を見よ!
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byFIFA via Getty Images
posted2010/06/18 14:00
短期集中連載『痛快☆ブブゼラ通り』、その栄えある第1回にはアルジェリアの皆さんにご登場願うことにした。
アルジェリアといえば優勝候補でもなければ、そのニュースが日本で報じられることも滅多にない。だが、出場32カ国の熱狂ぶりをランク付けすれば、この国は確実にベスト8入りするはずだ。
アルジェリアにとって、ワールドカップ本大会への道は長く険しかった。
'80年代に2度本大会に出場し、初出場の'82年スペイン大会では、初戦で西ドイツを下すという大番狂わせを演じた。だが、「砂漠の狐」と呼ばれる代表チームは長い眠りにつく。内戦が深刻化し、サッカーどころではなくなってしまったからだ。
合言葉は「ワン、ツー、スリー! ビバ・アルジェリ!」。
南アフリカ大会の予選が始まったとき、本大会出場を渇望する空気は薄かった。彼らにとって最大の目標はアンゴラで開催される2010年アフリカ選手権への出場であり、ワールドカップは現実的ではないと多くの人々が考えていたのだ。
だが、アルジェリアはブリダの地でアフリカの盟主エジプトに3対1で勝つと、国中に火がつく。ゴールが決まるたびにラジオを聞きながら運転していた人々がハンドルを手放したので、あちこちで交通事故が発生した。興奮のあまり、心臓発作で亡くなった人もいた。
この勝利によって、国中に合言葉が生まれる。
「ワン、ツー、スリー! ビバ・アルジェリ!」
南アフリカで試合を観戦される方は、アルジェリアのファンに向かって指を一本ずつ立てながら、「ワン、ツー、スリー」とカウントしてほしい。グリーンの国旗に身を包んだ男たちは、一斉に飛び跳ね、歌い出すはずだ(あなたは人気者になるだろう)。
サッカーが原因でエジプトとアルジェリアが国交断絶?
予選最終戦、アルジェリアは本大会への出場権を賭けてエジプトと激突したが、試合前に派手な場外乱闘が起こる。
カイロに乗り込んだアルジェリア代表のバスが襲われ、投石によって窓を次々と割られたのだ。
3人の選手が血まみれになった。
この一部始終は動画サイトにアップされ、エジプトは国際世論の非難を浴びた。
このとき筆者はエジプトにいたが、エジプト人は非を認めようとしなかった。それどころか、すべてはアルジェリア人の自作自演だと決めつけた。
両国はほとんど国交断絶状態となり、アルジェリアではエジプト排斥運動が始まった。エジプト系企業のオフィスが襲われ、テレビやラジオではエジプト歌謡が一切流れなくなり、エジプト系通信会社の携帯電話の契約解除が急増する――。