フェアウェイの舞台裏BACK NUMBER
ベテランと韓国人選手がなぜ強い?
恵まれたゴルフ環境が生む逆説。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byKyodo News
posted2012/11/08 10:30
7月のセガサミーカップ。日韓通じてのプロ初優勝を果たしたイ・キョンフン(右)と2位のキム・ヒョンソン(左)が、長嶋茂雄・大会名誉会長を挟んで記念撮影。
キム・キョンテらが、藤田寛之や片山晋呉から受けた影響。
これと同じようなことは、そこかしこで見受けられる。
男子ツアーで21大会連続でモデル別使用率No.1となったテーラーメイドのR11Sドライバー、ROCKET BALLZフェアウェイウッドを駆使して今季初優勝を挙げた2人もそうだ。
今年が日本デビュー年となるイ・キョンフンは、7月の長嶋茂雄招待セガサミーカップで日韓通じてのプロ初優勝を手にした。優勝会見では「日本では毎試合たくさんのことを学んでいる。特に藤田さんと回ったのがいい勉強になった」と語っていた。
4月のつるやオープンで優勝した藤田寛之と一緒にプレーする機会に恵まれた。そこで感じ取ったトッププレーヤーの風格。「表現するのは難しいけど、プレーする姿がカッコよかった」。尊敬する選手の名前には、韓国の先輩プロだけでなく藤田の名前を挙げる。藤田は優勝争いの重圧にどう対処していたのか。初日から首位を守ってさらりと完全優勝を成し遂げられたのも、憧れの藤田の残像を重ね合わせるようにプレーしていたからに違いない。
キム・ヒョンソンは「初めて日本に来たときに片山晋呉選手とかがすごくトレーニングをしていたのを見て自分もやらなきゃと思った」とフィジカルトレーニングの必要性を感じたのだという。ただし、勢い余ってオーバーワークとなり、左肩を故障してしまったのはご愛嬌。ケガによってしばらく低迷していたのだが、傷の癒えた今は「飛距離もハンパない」と新しいクラブとパワーアップの成果でプレーレベルも一段上がった。日本ツアー参戦4年目、8月のVanaH杯KBCオーガスタで念願の初優勝をつかみ取ったのだった。
日本の環境を味わった選手が韓国の試合に戻ると……。
彼らのスポンジのような吸収力は、日本と韓国のツアーを取り巻く環境の違いが大きい。キム・キョンテやイ・キョンフンの日本でのマネージャーを務める伊井祥訓さんは、日本ツアーにやってきた韓国人選手からいつもこんな感想を聞かされるのだという。
「姉さん(伊井祥訓)、これこそが試合ってものだよ」
整備の行き届いたコースや練習場、トーナメント運営の質の高さ、ギャラリーのマナーの良さ。伊井さんは「韓国のコースはメンバーの方を向いていて、トーナメントを成功させようという意識が足りないみたい」と指摘する。一度日本の環境を味わった選手が単発で韓国の試合に戻ると、あまりの落差に辟易としてしまう。日本に戻ってくると皆決まってこうグチをこぼす。
「姉さん、もう向こうでの試合は無理だ(笑)」
そうやって日本で過ごすうちに彼らのゴルフは少しずつ研ぎ澄まされていく。キム・キョンテは「アプローチの種類をもっと増やさなきゃ戦えない」と考えて技術を磨き、イ・キョンフンは「日本は層が厚いから一打で順位が大きく変わる。だから、どんな一打も捨てられない」と精神面でたくましくなった。