野球善哉BACK NUMBER
「見極め」「指名」から「見守る」まで。
プロ野球スカウトの役割を再考する。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/11/07 12:25
セ・リーグのCSファイナルステージ初戦で勝利投手となった大野雄大。「野手のみなさんのおかげです」と周りを気遣う礼儀正しいコメントを残している。
プロに入って、自分の良さを見失う選手も多い。
吹石スカウトといえば、今季、規定打席未到達ながらも.295の打率を残し、一時、4番にも座った枡田慎太郎を担当したスカウトだ。全国で名もない枡田を見出し、高校生ドラフトとはいえ2005年4巡目で指名に挙げた人物なのだ。今季のブレークまでに、枡田が何度か一軍に上がりながらもチャンスを逃してきていたのを見て、ひとり心を痛めていたのも吹石スカウトだった。
「どこまでの信憑性があるかは知らないけど、トレードの噂まであったほどやから……本当によくチャンスをものにしよったなって思う」
相好を崩しながら枡田の活躍を嬉しそうに語る吹石スカウトを見て、選手とスカウトの関係はこれほどまでに強固なものであったのか、と改めて感心したものだった。
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また、名前は秘すが在京球団のあるスカウトは、担当した選手との関わりをこう説明する。
「担任の先生っていったら、ちょっと大げさかもしれないですけど、僕らはアドバイザー的な、フォローをする役目なんです。アドバイス的な事を言うこともあるし、時には厳しいことも言いますね。
プロに入ると、どうしてもプロに合わせてしまって自分の良さを見失う選手っているんですよ。コーチに指導されていることを間違った方向に捉えているんです。それで、『それはお前、違うだろ、お前の良さはここなんだから、それで俺は獲ったんだ』という話をします。
偉そうに言うわけじゃないですけど、アマチュア時代のことをこっちは知っているわけですから、選手が本来持っている良さがどこなのかは伝えてあげます」
以前、彼の勧めに従って下位指名で獲得した投手が、不調に陥っていた時の話。腕の鋭い振りが長所の投手であったはずなのに、コントロールが悪いとコーチから指摘され、その振りを小さくし、持ち味を消してしまっていた時があったのだという。そこで、「腕を強く振って投げる球がお前の持ち味なんだから、それを忘れてはいけないよ」と指摘したところ、すぐにキレが戻ったのだそうだ。
その選手は昨シーズンこそ一軍での登板はなかったが、今季は一軍に昇格した。現在のところ、戦力外にもなっていない。
家族の存在がどれだけ大切なのかを知っている池之上スカウト。
担当した選手だけではなく、家族にも気を配るスカウトもいる。
阪神の池之上格スカウトだ。
「選手の親に電話する時もありますし、選手の名前は明かせないけど、担当した選手の家族が体調を崩したことがあって、鈴虫寺までお守りを買いに行ったということもありましたね」
池之上スカウトは、選手にとって家族の存在がどれだけ大切なのか、知っているのだろう。
そして彼もまた、選手との関係を非常にバランスよく保ち、その後の選手たちの行く末を見守っているスカウトのひとりである。