野球善哉BACK NUMBER
「見極め」「指名」から「見守る」まで。
プロ野球スカウトの役割を再考する。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/11/07 12:25
セ・リーグのCSファイナルステージ初戦で勝利投手となった大野雄大。「野手のみなさんのおかげです」と周りを気遣う礼儀正しいコメントを残している。
大野雄大の活躍に垣間見えた、米村スカウトの存在。
今季、ローテーションの一角を務めた2年目の大野雄大にも、厳しい眼を向けていた時期があった。
ローテーションに入り始めた頃のこと。米村スカウトは、どうも大野のピッチングに納得がいっていないようだった。
「結果が欲しいから、気持ちは分かるんやけど、腕を振ってない。ピッチング自体が守りに入っとるよね。あいつは腕を振ってナンボのピッチャーなんやから」
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その後……CSファイナルステージの巨人戦で2度マウンドに立った大野は、米村スカウトの言っていた通り、腕をしっかり振れていた。
第1戦目では内海哲也に投げ勝ち、最終戦では途中登板ながら3回を無失点に抑える好投も見せていた。2度の登板ともに、大野本来の相手に向かっていく姿勢がよく見えた、小気味良い投球内容だった。
大野の活躍の陰に、米村スカウトの影響がどれほどあったのだろうか――。
見極め、指名し、入団させ、見守り続ける――スカウトという仕事。
スカウトというのは、あくまで黒子の存在だ。
一般的には、選手の成功を裏で支えているのは、コーチの指導力であり、監督の起用法であり、家族の協力、ということになっている。スカウトの存在がクローズアップされることはほとんどないし、スカウト自身もそれを望んではいない。
「見極める」「指名する」「入団にこぎつける」……そして入団後、「見守る」。球団に入る前から退団後まで、ずっと選手を見守り続ける、このスカウトという仕事。その存在は、チームを強くするための非常に重要な鍵なのだということを、忘れてはならない。