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<トライアウト直前・独占告白>
一場靖弘 「自分はまだまだ終われないんです」  

text by

田口元義

田口元義Genki Taguchi

PROFILE

photograph byToshiya Kondo

posted2012/11/08 13:35

<トライアウト直前・独占告白> 一場靖弘 「自分はまだまだ終われないんです」 <Number Web> photograph by Toshiya Kondo

戸田球場のブルペンで一心不乱に球を投げ込んでいた一場。同時期にヤクルトから戦力外通告を受けた選手の今後では、現役引退してコーチになった者、他球団の用具担当スタッフになった者、まだ今後を未定とする者など、様々な選択があった。

 埼玉・戸田球場のセンター後方にあるブルペンでは、パーン、パーンと、キャッチャーミットの乾いた音が鳴り響く。

「いい! いいボールだ!!」

 ヤクルトに移籍して以来、ずっとボールを受けてもらっているブルペン捕手の小山田貴雄の掛け声が止むことはない。

 一場靖弘の顔にも自然と笑みがこぼれる。

「トライアウトに合わせて準備してきましたからね。真っ直ぐの調子はいいですし、全体的にも状態はいいです」

「ほんと、調子はいいんです」。自信と不安が交差するインタビュー。

 調子がいい。状態はいい――。

 これまでも一場の口から何度かそんな言葉を聞いたことがあったし、報道でも何度か目にしてきた。だが、そういった言葉を裏切るかのように、一場はこれまでなかなか結果を出すことができなかった。

 そして今季オフ、戦力外通告を受けることになった。

 もしかしたら次、移籍しても……。そんな不安までが筆者の脳裏をよぎる。

 一場は、そんな懸念を見透かしたようにこう切り返す。

「ほんと、調子はいいんです。実戦感覚から遠ざかっているのが正直、不安な部分ではありますけど、マウンドに上がってバッターと対戦したらアドレナリンがいっぱい出てくれると思うんで。うん、大丈夫っす」

 自分に言い聞かせるように、彼は大きく頷いた。

「エース候補」として東北楽天に入団した、8年前。

 東北楽天が誕生した2004年に自由獲得枠で入団して以来、一場は常に「エース候補」と呼ばれていた。

 1年目は2勝9敗とチームの期待に応えることはできなかった。2年目は開幕投手を務め、7勝14敗と大きく負け越したものの、1年間先発ローテーションを守った。

 ところが'07年は登板回数が半分以下に減り、成績も6勝2敗に終わった。そして、翌年はプロ入り初めての未勝利に終わる。

「精神面の弱さ」「制球難」。これが、一場が結果を出せない最大の原因だ――。そう、周囲から言われ続けた。

 文句は山ほどある。だが彼は、決して言い訳を口にしなかった。

【次ページ】 「過去にいろんな経験をさせてもらいましたから……」

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