欧州サムライ戦記BACK NUMBER
長友が人生初の退場で思い知った、
“ミラノ・ダービーの魔物”とは?
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byMaurizio Borsari/AFLO
posted2012/10/14 08:01
退場を告げられる長友。試合後、敵であるミランのDFダニエレ・ボネーラが「今日の審判は、長友の退場も含めて多くのミスを犯した」と語るほど、疑惑渦巻く試合となった。
インテルOBも「このハンドは擁護できない」と語る。
1点リードで折り返した後半が始まると、FWボージャンへ密着マーク。
シュートコースは切る。クロスは上げさせてもインフィールドは狙わせない。長友は細心の注意を払っていた。そのはずなのに、なぜか相手DFデシーリオがヘディングで折り返したボールへ、不用意に右腕を開いてしまった。
インテルOBのご意見番ジュゼッペ・ベルゴミは、イタリアのSKYでの解説中に「1枚目の警告は正直厳しいと思ったが、このハンドは擁護できない」と冷静にコメントした。チームメイトたちは抗議したが、背番号55への退場の判定が覆るはずもなかった。
モウリーニョ監督時代のインテルにもあったハンド事件。
ミラノ・ダービーでのハンド事件といえば、'09年2月の対戦でインテルFWアドリアーノが“右手で”押し込んだゴールが論争を呼んだ。
当時モウリーニョ体制1年目のインテルは、問題児FWの先制点で勢いにのり2対1で勝利すると、そのままスクデット獲得へ大きく前進した。猛抗議したミランの主将マルディーニは、史上最多56回目にあたる現役最後のダービーで苦杯をなめた。
'03年5月に行われたCL準決勝は、史上最も重要な180分間のミラノ・ダービーとして知られている。
2試合通算1対1のドロースコアも、主催試合でミランFWシェフチェンコにアウェーゴールを許したインテルが決勝進出を逃すことに。2ndレグ終了直後のロッカールームでは、“無敗なのに敗退”という理不尽さに、主将サネッティ以下メンバー全員が号泣した。
一つの判定やルールの無情さが、ときにチームの命運を左右する。ダービーでは、魔物のように1プレーが勝負の行方を変える。
インテル監督は「(この判定を)正しいとも間違っているとも言わない」。
長友を失い、後半ほぼまるごと10人で戦うことになったインテルは、腹を括るとむしろ意外なほどに結束力を高めた。
ストラマッチョーニ監督は交代策を駆使して、4-4-1にスイッチ。数的不利に陥ったことで、かえって闘志をかき立てた選手たちは、集中力を切らさずにミランの猛攻を凌ぐと、虎の子の1点を見事守りきった。
試合後のストラマッチョーニは「(長友への判定を)正しいとも間違っているとも言わない。主審は難しい試合を裁いた」とだけ述べ、勝ったチームの指揮官として如才ないところを見せた。分水嶺を制したことで、インテルは、ユベントスとナポリの2強を追うポテンシャルをあらためて示したのだ。