野球善哉BACK NUMBER
阪神とオリックスは宿命の対決づくし。
鶴直人vs.T-岡田がもっと見たい!!
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/06/07 12:40
替えて欲しくなかった。
試合展開からすれば、替え時だったということは分かっている。
縦じまを身にまとった背番号「46」が、首脳陣が腹をくくれるほどの信頼を得ていないということも、分かっている。
またこの球団を取り巻く環境に、1勝に固執するファンやメディアが存在するのも、理解している。
しかし……。
将来を担うべき縦じまの右腕が対峙する相手が、オリックスの背番号「55」であったことを考えると、このまま、その彼がマウンドを降りてしまって良いのかと思ったのだ。
6月5日の阪神vs.オリックス。3-3の同点で迎えた5回表1死満塁、両者、逃げ場のない場面で阪神が取った継投策は、成功したとはいえ、物足りなさを残すものだった。
阪神の背番号「46」鶴直人vs.オリックスの背番号「55」T-岡田。
この対戦は単なる、若手有望株の対決ではない。
T-岡田については、以前このコラムでも紹介したので詳説を省くが、彼らには高校時代からの深い因縁があるのだ。
“ナニワの四天王”鶴、岡田、辻内、平田らの時代が!
鶴は高校時代、「ナニワの四天王」のひとりとして、注目された存在だった。鶴のほかに、このT-岡田(岡田貴弘)、左腕から150キロを超えるストレートが魅力の辻内崇伸(巨人)と高校通算70本塁打の平田良介(中日)。
右投手(鶴)、左投手(辻内)、右打者(平田)、左打者(岡田)……運命のいたずらかと思えるかのように、その当時の大阪には逸材が揃っていたのだ。
そのうち、鶴と岡田が関西に残った。
今、思い返しても、鶴の近大付高校時代の才能はきらびやかだった。
圧巻だったのは2年夏の大阪府大会でのこと。このとき、鶴の投球は一層その凄味を増していた。実はちょうどこの大会で岡田が騒がれはじめ、1大会5本塁打を放っていたのだが、その時、鶴も伝説的な投球を見せている。
1回戦の天王寺商戦。格下と言われたチームが相手ではあったものの、鶴は11者連続三振という離れ業をやってのけたのだ。力の差があったとはいえ、打者が誰一人として、バットに当てることすらできないというのは、とんでもない伝説的ピッチングである。
誰も真似のできない、鶴のしなやかな投球フォーム。
鶴の凄味はそのしなやかな投球フォームにある。
中学時代の後輩である前田健太(広島)がPL学園高時代に「目標とするのは鶴さんのフォーム。でも、あれは誰にもマネできないんです」と話していたほどである。身体に力みがなく、バランスが取れ、それでいて、右腕から投げ込まれる球速は150キロを計測し、手元でキレた。同じフォームから繰り出されるスライダーもまた、秀逸だった。当時、鶴は自分の投球フォームについて、こう話していた。
「まずはバランスを考えています。肩を鍛えるのでも右だけが強すぎるとピッチングに影響する。足腰についても同じで、バランス良くです。投げるときに心がけるのは肩で投げるのではなく、下半身を使いながら投げる。フォームは急がずにゆっくりと自分のペースに持って行きながら、腕を速く振る。フォームについては誰にも教えられたことはありませんし、今では、どこか悪くなったとしても、その原因がどこにあるかすぐに分かるようにもなりました」