野球善哉BACK NUMBER
T-岡田のホームランは客を呼べる!!
打率2割3分でも起用される理由。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/05/10 12:10
開幕戦のことだった。
楽天のエース・岩隈久志のストレートを捉えた打球が破裂しそうなほどのインパクト音を残して、右翼席ポール右上方5階席へと突き刺さる大ファールになった。その軌道を見た時、彼への期待度が単なる若さや話題性からくるものでないという確信が持てた。
あの日、目にした打球は本物だった。
オリックスの若き大砲・T-岡田のことである。
ファールになったとはいえ、'08年の沢村賞投手でもある岩隈に向かってあれほどの打球を返せたということは、彼のレベルが開幕時点ですでに一軍レベルにあることを伝えていた。
時を経て、5月5日の対ソフトバンク戦。
3回裏、1、3塁で打席に立ったT-岡田はここでも驚愕の打球を見せる。
高橋秀聡のストレートを捉えると、打った瞬間にそれと分かるホームラン。T-岡田は行方を目で追うことなく、ベンチを見やり「どうだ」といわんばかりのジェスチャーを見せた。打球は開幕戦と同じ、5階席まで飛んでいた。
これがT-岡田のホームランなのだ。
高校時代は「浪速のゴジラ」だが、ドラ1入団後は……。
打率が.220~.230台でもスタメンに抜擢され、彼が5番を打つ理由はその凄まじい打球にある。「自然にバットが出ました。打った瞬間に(ホームランって)分かったんでね」と笑顔を見せたT-岡田。履正社高校時代は「浪速のゴジラ」として注目を浴びたが、まさに松井秀喜の打球である。
T-岡田が「ゴジラ」の愛称で呼ばれるようになったのは、高校2年夏を前にある専門誌で紹介されてからだ。直後の大阪府大会で5本塁打、さらに2試合をまたいでの5連続敬遠をくらい、その愛称はますます彼のものになった。高校を通じて甲子園に出場することはなかったものの、通算55本塁打。足を高くあげて、左右に本塁打をぶち込む岡田の打棒は「浪速の四天王」(阪神・鶴直人、中日・平田良介、巨人・辻内崇伸)のひとりとしても、アマチュア野球界を騒がせた。
しかし、'05年の高校生ドラフト1位でオリックス入りしたT-岡田にとっては苦しい日々が続いた。1年目こそ、一軍昇格を果たしたが、2、3年目は結果を残せずファーム暮らし。ファームでも、これといった成績を上げられなかった。当時を振り返り、T-岡田はこう話していた。
「2、3年目は苦しかったですね。メンタル的には打てなくて落ち込むことが多かったですし、フォームに関しても、全然、定まらなかったですから」