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金本は“新・代打の神様”になれるか!?
桧山、川藤らに見る成功の条件。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/09/10 12:25
9月10日現在、金本は108試合に出場して打率.256、得点圏打率.230。来季は代打要員として、持ち前の勝負強さを今季以上に発揮していくことが求められる。
'06年夏の甲子園を沸かせた鹿児島工業・今吉の例。
桧山がこれだけ試行錯誤したように、代打とは、スタメンを長く経験した選手であればあるほどアジャストが難しいのだ。そこで結果を出すためには、どこかで桧山のように割り切る必要がある。その切り替えが困難だからこそ、大打者ほど、代打として活躍した例が少ないのではないか。
高校生の例で恐縮だが、2006年夏の甲子園で四強入りした鹿児島工業に、やはり代打の切り札として活躍した今吉晃一という打者がいた。打席でバットの先をピッチャー方向に突き出し、「シャー」と絶叫する姿が話題となり、彼がネクストバッターズサークルにスタンバイしただけで球場から拍手と歓声が沸き起こった。
彼のその夏の代打成功率が驚異的だった。鹿児島大会から甲子園の準決勝まで全10試合に代打として出場し、通算10打数7安打。打率7割と打ちまくったのだ。
なぜ代打で打率7割もの成績を残すことができたのか。
なぜ彼がそれほどまでの成績を残すことができたのか。今吉が代打に専念することになった経緯を聞き、少し納得した。
控え捕手でもあった今吉は2年秋に腰の骨を疲労骨折し、3年春、医者に「夏にはもう間に合わない」と最後通告を受けた。
だが、監督のこんなひと言で生き返った。
「バントも、守備も、走塁もせんでええ。ここぞというときに1本打つための練習だけしとけ。その代わり、どっかで使うから」
今吉が振り返る。
「やらせてもらえるもんがあるなら、なんでもやりますっていう感じだった」
自分が生きる道は、もはや代打しかない。その覚悟が、あれだけの集中を生んでいたのだ。
広島の前田智徳が今季、代打としてあれだけ結果を出しているのも、今吉同様、両足の故障もあって自分にはもはやスタメンは無理だという諦観があるせいではないだろうか。