スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
ストラスバーグとプライアー。
~厳格な投球制限は正しいか~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byYukihito Taguchi
posted2012/09/09 08:01
ストラスバーグのポストシーズンでの快投を楽しみにしているファンからはブーイングも起こったが……。
ストラスバーグにかぶさるプライアーの悪夢。
ポストシーズンの激闘もふくめて、彼はこのあと9試合に先発し、平均125球を投げた。130球以上投げたケースも4試合あった。投球回数は、プレーオフも入れると234回3分の2。球数は3769(公式戦での成績は18勝6敗、防御率=2.43)。無茶苦茶な酷使だが、当時は、使う側も投げる側も見る側も、深くは考えなかった。プライアーは壊れた。あれほどの天才も、あいつぐ故障には勝てなかった。'06年を限りにカブスを退団するまでの3年間で、18勝17敗、防御率=4.27の成績しか残せなかったのだ。
この悪夢が、ストラスバーグにもうっすらとかぶさる。どちらも20代前半の若さだ。どちらもカレッジ出身の速球派だ。そしてふたりには、共通するメカニクスの欠陥がある。左足が着地したあとも、ボールを握った右手の位置が肩より高いところにあるのだ。これは危ない。肘や肩に余計な負担がかかる。
才能豊かな投手が、無理使いと手術の祟りで苦しんでいる事実。
それやこれやを考え合わせると、ストラスバーグの操業停止を決めたリゾGMの判断は正しいといわざるを得ない。実際の話、プライアーの極端な例は別格としても、ジェイミー・ガルシア、ジョシュ・ジョンソン、松坂大輔といった才能豊かな投手が、無理使いとトミー・ジョン手術の祟りで苦しんでいる事実は否めないのだ。
だとすれば……まだまだ先があるはずの選手寿命を考慮するならば、ストラスバーグを燃え尽きさせてはなるまい。たしかに、彼がポストシーズンを欠場するのは大きな痛手だ。が、先ほども触れたとおり、ナショナルズの先発陣は質量ともに10月の激戦を乗り切る力に恵まれている。
秋のテレビ放送は、ジャケットを着てゲームを観戦するストラスバーグの姿を何度となく映し出すことだろう。が、それを嘆くのは観客のわがままにひとしい。彼の打ち上げ花火を見られないのは寂しいが、野球とは本来、長丁場の勝負を旨とする競技なのだ。ストラスバーグの快投をあと10年見られるのならば、10月の短い不在には、あえて眼をつぶろうではないか。