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ストラスバーグとプライアー。
~厳格な投球制限は正しいか~ 

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芝山幹郎

芝山幹郎Mikio Shibayama

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photograph byYukihito Taguchi

posted2012/09/09 08:01

ストラスバーグとプライアー。~厳格な投球制限は正しいか~<Number Web> photograph by Yukihito Taguchi

ストラスバーグのポストシーズンでの快投を楽しみにしているファンからはブーイングも起こったが……。

 操業停止が近い。

 このままで行くと、たぶん9月12日がXデーになりそうだ。7日のマーリンズ戦と12日のメッツ戦。今季のスティーヴン・ストラスバーグは、これで見納めになる公算が大だ。

 シャットダウンの声は、8月後半から聞かれていた。もちろん、単なる噂の域にとどまるものではない。投球数の目安は2500球。1イニングに15球平均投げるとすると、投球回数は166回強。トミー・ジョン手術(肘の腱移植手術)を受けた直後の若い投手を保護するには、これくらい厳格な投球制限が課せられる必要がある。

 去年でいえば、同じナショナルズのジョーダン・ジマーマンがこれに当てはまる。2010年を手術で棒に振った彼は、翌11年、161回3分の1を投げたところで操業停止を言い渡された。

 気の毒な感じもしないではなかったが、結果的にはこれが吉と出た。今季('12年)のジマーマンは、すでに164回3分の2を投げて防御率=3.01と、昨季を超える成績を残している。しかも、浮き沈みの波が大きかった11年シーズンに比べて、今季のジマーマンははるかに安定した投球内容を示しているのだ。

 ナショナルズのGMマイク・リゾは、この教訓をストラスバーグにも適用しようとしている。

投手陣の大黒柱を運転休止させるなんて、と思ったが……。

 もちろん、観客側のショックは大きい。私も、初めてこの話を聞いたときは思わず声をあげて驚いた。なにしろ、ナショナルズの勝率は大リーグ30球団中最高である。とくに、ストラスバーグ、ジマーマン、ジオ・ゴンザレス、エドウィン・ジャクソン、ロス・ディトワイラーとそろった先発陣は躍進の原動力といって過言ではない。その投手陣の大黒柱ともいうべきストラスバーグを運転休止させるなんて、烏滸(おこ)の沙汰ではないか。反射的に、私はそう考えたのだ。

 しかし……と私はすぐに考え直した。というより、10年近く前のマーク・プライアーの姿がありありと蘇ったのだ。

 ご記憶の方も多いと思うが、2003年のカブスは1908年以来の快進撃を続けていた。ダイナモは、ケリー・ウッドとプライアーの両右腕。わけても、弱冠22歳のプライアーには天才のイメージが強烈だった。

 9月1日の時点で、プライアーはすでに167回3分の2を投げていた。球数に直すと2644球。前の年にトミー・ジョン手術を受けた若者にしては多すぎるほどの球数だが、当時の球界には現在の常識がなかった。ナ・リーグ中地区の首位から2.5ゲーム差の3位につけていたカブスは、プライアーをフル稼働させた。

【次ページ】 ストラスバーグにかぶさるプライアーの悪夢。

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