野球善哉BACK NUMBER
ダルなき日本球界を照らす一筋の光。
“向上心”の男、大阪桐蔭・藤浪の夏。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/08/29 10:30
光星学院を相手に、夏の甲子園決勝最多となる14奪三振で締めくくった大阪桐蔭・藤浪。プロ志望を明言し、「球団はどこでもいいです」と語る彼の進路に、プロ野球関係者の熱い視線が注がれている。
小説を愛読し、得意科目は日本史、国語。
小説を愛読し、日本史が好きな高校生・藤浪は、野球だけに没頭してきたわけではない。数多の強豪校から進学先に大阪桐蔭を選んだのも、大阪桐蔭が進学校で学校案内パンフレットの雰囲気に自身の求める学校像がマッチしていると感じたからだ。
「勉強に関しては、高校に入ってからはそんなにいいわけじゃないんですけど、もともと日本史が好きで、成績は良かったです。読書をするので、その効果もあって、国語の成績もいい方だと思います」
「文武両道」などというのは大げさかもしれないが、藤浪という一人の人間を映し出す要素として、野球だけに偏らない人としての奥の深さが彼の成長を促してきたことは間違いない。
監督の西谷は、藤浪の成長を見守る中で、これまで育ててきた逸材との違いを感じていたという。
「こちらが言ったことを理解する能力は高いですね。飲み込みが早いんです。努力する性格の持ち主ですし、強い信念を持っている子だったので、伸びる要素はもっていましたね。ただ、入学してきた時は、(藤浪が)試合で投げられるようになるのは高校2年になってからと思っていました。長身の選手ですので、鍛えないといけないですし、ピッチング以外の周辺動作など学ばないといけないことが多いと。ところが、飲み込みが思っていた以上に早かったです。だから、1年の秋から使いました」
しばしば比較されるダルビッシュについて考えること。
一つ一つの積み重ねがあって、人は成長する。勉強の中から、あるいは読書の中から藤浪はそのことを感じとっていたのかもしれない。
本人も、課題を抱きながら自らの成長を感じていた。
去年の冬、藤浪はこう話している。
「自分では1年の終わりくらいに140キロ中盤を出せれば良いと思っていました。140キロ後半を越えられるとは思っていなかったですね。試合に関しては、早く投げたいというより、ベンチに入ること。ベンチ入りさえすれば、登板機会が増えてくる。そうすることによって成長できる、と。ダルビッシュさんと比較されるのは嬉しいですけど、大げさと言うか、僕は、そんないいもんじゃない。ただ、ダルビッシュさんに学ぶところは多いです。あの身長でどうやって投げているのか、身体の使い方は参考になります。下半身から上半身の粘りがすごいと思います。下半身は前にいっているのに、上体は残っているんですよね。真似したいと思います」