ロンドン五輪探検記BACK NUMBER
トランポリンは“チームスポーツ”!?
上山容弘が仲間に送った笑顔のパス。
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byTetsuya Higashikawa/JMPA
posted2012/08/09 16:30
北京五輪に続いて2大会連続五輪出場を果たした上山。「この4年間でつちかったもので入賞することができた。これからも、できうる限り競技を続けていきたい」と競技後にコメントしている。
“チームメイト”の伊藤正樹は4位だったが……。
試合前から「日本チームでひとつのメダルを」と言ってきた上山だったが、自身は5位。ともに出場した伊藤正樹は4位と惜しくも「チーム」はメダルに届かなかった。
だが、上山は試合直後に、充実感をにじませながらも、冷静にこんなことを言っていたのだ。
「日本としてメダルをとれなかったのは残念でした。成績的にも、ランキング的にも彼(伊藤)のほうがずっと上だったので、彼に気分よく演技をさせたいな、と思っていたんですけど」
自分自身もメダルを狙える位置につけ、考えようによっては順位を争うライバルにもなりえる「チームメイト」。そういった状況のなかで「僕の後に演技をする正樹にうまくバトンを渡すために」4年に1度の舞台に臨んだというのだ。
その言葉には、過度な自己犠牲の精神や、あきらめはもちろん、マスコミに対するリップサービスのような雰囲気はまったく感じられなかった。
もちろん冷静な能力の分析はあったのだろうが、トランポリンという競技を通して、お互いをアスリートとして信頼しあえているからこそ立てた境地だったのだろう。
「北島さんのために」と団結した競泳チームや、「毎日の努力をお互いに見ているから」襷をかけることによって自分の力以上の走りを見せられる箱根ランナーのように。
「のびのびと自分らしい演技をやってくれ」というメッセージ。
そういえば上山は決勝で自分の演技を終えると、すぐ次の演技者である伊藤に向けて、笑顔でサムアップの合図を送っていた。
そこにはパスやトスはもちろん、バトンや襷の受け渡しすらない。だが、そのサムアップは「のびのびと、自分らしい演技をやってくれ」というメッセージのように見え、はっきりと「チーム」を感じさせてくれた。
サムアップを送られた伊藤は「上山選手がいたので、自分の演技はできたんですけど……悔しいです」と、目指してきたメダルに届かなかった不甲斐なさに涙をにじませていた。
パス交換やメンバー交代がなくとも、彼らが「チーム」であることをハッキリと教えてくれたのは、この2人の関係性だった。トランポリンという個人競技がチームで戦うことの奥深さを感じさせてくれたという事実が、スポーツの面白さを教えてくれた気がする。