ロンドン五輪EXPRESSBACK NUMBER
“くすぶり”を晴らす、ゆかでの演技。
銀でも内村航平に満足感が漂う理由。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2012/08/06 15:45
圧倒的な存在とみなされながら、苦しい五輪となった今大会。種目別決勝のゆかに出場した内村は、技の難易度を示すD得点で中国の鄒凱に及ばなかったものの、出来栄えを示すE得点では全選手中トップをマークした。
ロンドンで見せた最高の笑みだった。
体操男子種目別のゆか。内村航平が、団体総合の銀、個人総合での金に続く今大会3つ目のメダルを獲得した。
「満足いく演技がやっと最後にできました」
狙っていた金メダルと色は違う。けれどもその顔には満足感が漂っていた。銀メダルであることは問題ではなかった。
「一番手ですごくいい演技ができたことがうれしかった。予選からミスが続いていたので、最後の最後にいい演技ができて、自然と笑顔になりました」
その言葉通り、演技順は決して良くなかった。8人中1番手での登場は、アップ直後の演技であるため自然と体が動きやすくなっており、力の入れ過ぎに気を遣わなければならない。加えて、どうしても後続選手の指標になってしまうからだ。
D得点で上回った鄒凱を認めた、内村らしい言葉。
フーッと息を吐き、慎重に演技を開始。種目別用に取り入れていた大技のリ・ジョンソンを抜いて、個人総合と同じ技の構成で演技を行った。5回ある着地のうち、最初と最後はきっちり止めた。内村にとってはこれがうれしかった。
両手でガッツポーズ、そして満面に笑みをたたえた。得点は演技の難度を示すD得点が6.7、できばえを示すE得点が9.100で合計15.800だった。
2番手で出てきた北京五輪金メダリストの鄒凱(中国)がD得点6.9の構成で演技をして15.933をマークして首位に躍り出たが、内村にがっかりした様子はない。鄒凱のE得点は9.033。E得点では内村が上だ。
結局、内村は最後まで2位をキープし、銀メダルを手にした。3位のデニス・アブリャジン(ロシア)とは15.800で並んだが、E得点で上回った内村が銀メダルとなった。
「中国選手が上だったのは当然だと思いました。着地で動いたのが最後だけだったし、D得点では向こうの方が上だったから。僕の点が低くて当然だと思いました」
心からそう言っていた。理想を追い求めることを最大のモチベーションとする内村らしい言葉だった。