ロンドン五輪EXPRESSBACK NUMBER
北京とロンドンでは何が違ったのか!?
不調の内村が身を委ねた“直感”。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2012/08/04 12:50
技の難度を下げ、確実性の高い演技で個人総合金メダルを獲得した内村。団体総合決勝で骨折し、個人総合決勝を欠場した山室光史のためにも、内村は初めて勝負を優先させた。
8月1日、体操男子個人総合で金メダルを獲得した内村航平は、心からほっとしたような、そしてうれしそうな表情を浮かべた。
そこに、オリンピックという舞台ならではの苦しみと、そこからの解放がこめられているようだった。
オリンピックは別物だ。
過去の大会でも何度も目撃したことだが、今大会もまた、そうだった。
オリンピックは4年に一度の大会である。選手の多くは、「4年後」を見定めて、練習に取り組んでいる。いや、もっと長い期間、オリンピックに出る日を思っている。そんな時間をこめて臨むのだ。
だから、周囲の期待の大きさばかりでなく、自ら抱えこむ重圧に苦しむことになる。
「オリンピックはほかのどの国際大会とも違います」
「オリンピックは別です」
そんな言葉を、何度も何度も聞いたことがある。
それは内村も例外ではなかった。
これまでと違う演技への姿勢。
ロンドン五輪を前に、内村は、「もっとも金メダルに近い選手」と言われてきた。事実、実力は抜きん出ている。
前評判どおりに、内村は、8月1日に行なわれた個人総合で優勝した。得点は92.690。2位に1.659点の差をつけての完勝である。
優勝したあと、内村は言った。
「今回は本当に(金メダルを)獲りに行ったというか、勝ちに行った演技内容という感じだったなと思います」
それは意外な言葉だった。
内村と言えば、自分の理想とする演技を追求し続け、より高いところを目指してきた選手だ。どの大会でもそうだ。世界選手権のような大きな大会でも、よりレベルの高い演技を志してきた。
それからすると、「勝ちに行った演技内容」というのは、ニュアンスが異なる。
演技の構成にもそれは表れていた。
鉄棒と平行棒で技の難度を下げて臨んだことだ。