ロンドン五輪EXPRESSBACK NUMBER
笑顔のヒロイン、田中理恵の集大成。
ロンドンで見せた自己ベストと涙。
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byEnrico Calderoni/AFLO SPORT
posted2012/08/04 16:45
五輪直前に発症した腰痛に苦しんでの演技となった田中理恵。それでも、「満足はしていないが、悔いは残っていません」と語り、笑顔でしめくくった。
激しい腰の痛みに襲われようとも、決して顔をゆがめることはなかった。大会7日目の8月2日に行われた体操女子個人総合決勝。予選を突破した24人によって争われるこの日の舞台は、「オリンピックはロンドンが最初で最後」と話していた田中理恵にとって体操人生の集大成だった。
「理恵らしい演技で締めくくりたい」
見る者を引きつける“理恵スマイル”をたたえて、田中は演技を行った。
スタートは得意のゆかからだった。女性らしい柔らかみのある動き、妖艶な表現力は25歳の田中だからこそ。そして、世界の誰もが知っているピンクパンサー、007のテーマ曲で観客にアピールする。
特に007は、ロンドン五輪開会式の中でジェームズ・ボンドとエリザベス女王が“出演”した映画。体操会場のノースグリニッジアリーナでは、007の音楽が流れると、ユニオンジャックの小旗を手に応援する英国人が自然と田中の演技に視線を奪われていった。
痛みを感じていても、人々への感謝の思いが自然と笑顔になった。
ゆかは、団体総合決勝ではひねりが足りず、ラインオーバーなどのミスをして、チームの足を引っ張った種目だ。
「個人総合では完璧な演技を見せたい」と意気込んで臨んだが、またしても腰痛の影響でラインオーバーしてしまう。
しびれるような痛み。けれども田中は演技が終わるたびに笑顔を見せた。今まで支えてくれた人々への感謝の思いが自然とそうさせたのだ。
こうして迎えた最終種目の平均台では、ぴたりと着地を決めることに成功する。合計点は55.632で16位。この成績は、2010年にロッテルダムにて行われた世界選手権で、最も美しい演技で観客を魅了した選手に贈られる『ロンジン・エレガンス賞』を受賞したときの17位、昨年の世界選手権の20位を上回る、世界戦での“自己ベスト”だった。