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清武弘嗣が移籍早々に見せた、
ドイツで成功するための2つの条件。
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph byAFLO
posted2012/07/20 10:32
入団会見で「Nennen Sie mich “Kiyo”」(僕のことをキヨと呼んでください)と挨拶。チームメイトからも早速、“Kiyo”と呼ばれている。子供たちにも人気だ。
チームメイトとプレーによるコミュニケーションを図る。
そして、その流れの中から未来への希望を思わせる2つのシーンが生まれた。
まずは、後半36分。右サイドバックのチャンドラーがハーフウェイラインを越えたあたりから、左サイドの深い位置に走りこもうとしていた清武へ長いパスを送る。残念ながら清武に届く寸前で相手選手にクリアされてしまった。それでも清武が、チャンドラーに向かって右手の親指をたてる。良い狙いだよ。そんなメッセージだ。チャンドラーも片手を上げてこたえる。さらに、その後、プレーが切れるとチャンドラーが清武の方に寄っていく。清武が片手を出す。その手にチャンドラーが軽くタッチした。
その3分後。ペナルティエリア内に入った清武が右サイドからのクロスに反応すると、やや後方にいたボランチのメンドラーへ胸を使ってボールを送る。メンドラーはダイレクトで、シュートを放つ。相手ディフェンダーの足にあたり、コーナーキックになったのだが、コーナーキックが蹴られる前の短い時間で、メンドラーが清武のもとへ近づいていく。まるで3分前のシーンを再現するかのように、2人は軽くタッチをかわした。
人柄とサッカーの才能を兼ね備えた清武の未来は明るい。
これらのシーンが意味することは、2つだ。
ドイツ語を上手くしゃべれなくとも、コミュニケーションをとろうとする姿勢が清武にあるということ。そして、チームメイトが清武のサッカー選手としての能力を高く評価しているということ。
コミュニケーションをとるのが上手いだけでも、サッカー選手としての能力が高いだけでも活躍するのは難しいだろう。その両方が備わっている選手こそ、ドイツで名を成せるのだ。香川にしろ、内田にしろ、長谷部にしろ、その2つを身につけていた。清武にも、そうした可能性が十分すぎるくらいにあるのだ。
試合が終わると、周囲からの反応はこれ以上ないほどのものだった。ファンはサインや写真撮影をねだり、フォトグラファーは次々とシャッターを切っていく。TV局のマイクも向けられた。
清武のゴールをおぜん立てしたのはもちろん、何度もパス交換した右サイドバックのチャンドラーはこう語っていた。
「良いボールを蹴るよね。アイツとは良い関係を築いていくことが出来ると思うなぁ」
ヘッキンク監督も満足げなコメントを残している。
「彼はうちのクラブに欠けていたタイプの選手なんだ。彼のクオリティーはかなり高い」