プレミアリーグの時間BACK NUMBER
ゴールラインの機械判定が正式決定。
文明の利器はサッカーをどう変える?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byBongarts/Getty Images
posted2012/07/20 10:30
写真は、今年7月にドイツで行われたテストの際にゴールの枠に取り付けられたゴールライン・テクノロジーのひとつ『ゴールレフ』のセンサー群。磁気センサーでボールの動きを正確に測定できるという。
2種類の判定システムの導入でコストの問題も解消。
一部には、判定確認のためのプレー中断を嫌う声もあったが、この点も問題はなさそうだ。FIFAは、ゴール判定の精度と共に、判定の速度にも重点を置いてテストを行なっている。「1秒以内の判定」が合格の条件だった。対象となった8システムのうち、最終的に認められたシステムは2つ。高速ビデオカメラと分析ソフトの組み合わせによる『ホークアイ』と、電磁波を利用する『ゴールレフ』だ。
一般的なハイテク商品がそうであるように、両システムにも一長一短がある。ホークアイは、テニスのウィンブルドン選手権でも既に実績がある。映像で判定の妥当性を確認できることから、テレビ向きでもある。だが、分析データ収集のためにカメラがボールを捉えている必要があり、ボールがセーブを試みたGKの体の下に隠れているような場合には、判定不能となりかねない。また、1つのゴールをカバーするために6、7台のカメラを設置しなければならず、1会場あたりの導入コストが25万ポンド(約3000万円)とかさむ。
その点、カメラ不要のゴールレフに死角はない。ボール表皮の下に小さな電極プローブを埋め込み、ゴール枠の内側にセンサーを設置するだけのシステムは、低コストでもある。 ボールがラインを超えた0.1秒後には、ゴールの合図が審判に送られるという。だが、その合図以外に判定を確認する術がなく、選手やサポーターは、テクノロジーを信じて微妙な判定を受け入れるしかない。どちらを採用するかの判断は、各国の協会とリーグ次第。イングランドでは、予算もテレビ中継も多いプレミアリーグがホークアイ、予算と露出度で下回るフットボールリーグ(2~4部)がゴールレフと、双方の採用も現実的だ。
12月に日本開催のクラブW杯で機械判定を初採用。
プレミア勢を代表して“モルモット”となるのは、12月にCL王者として日本開催のクラブW杯に参戦するチェルシー。例年は、シーズン真っ只中に遠方で行なわれる大会として軽視されがちだが、今年のクラブW杯は、テクノロジーが正式採用される初の国際大会として、少なからずイングランド人の気も引くに違いない。プレミアでは、大会後の来季後半からの導入が見込まれている。ウェンブリー・スタジアムには、6月のテスト時にホークアイが設置済みであり、同スタジアムが会場となるFAカップの準決勝と決勝の2試合の他、FIFAの合意さえ取り付ければ、W杯予選を含む代表のホームゲームでも、テクノロジー利用は可能だ。
但し、チャンピオンズリーグとヨーロッパリーグでのゲームは話が別。UEFAのミシェル・プラティニ会長は、断固として導入反対の姿勢を貫いており、ゴール判定用の追加審判が、テクノロジーの代りを務め続けることになる。「一度採用に踏み切れば、止めどなく機械化が進んでしまう」と憂う、プラティニの気持ちも理解できなくはない。「人間臭さ」は、庶民のスポーツであるサッカーの大きな魅力だ。