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<柔道女子48kg級代表の諦めない心> 福見友子 「幾度の挫折を乗り越えて」
text by

松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2012/07/19 06:02

“すべてを懸けて”臨んだパリ世界選手権での敗退。
昨夏、パリ世界選手権を前に、福見は強い決意をもっていた。
「自分のすべてを懸けて臨む」
ロンドン五輪前のシーズンである。選考の材料としての重みを十分承知していた。まして、'10年に東京で行なわれた世界選手権では決勝で浅見に敗れている。代表になるにはここで勝つことが必須であり、負ければ先はなくなる。だから必勝を期していた。
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ところが――。すべてを懸けて臨んだ大会の決勝で、再び浅見に敗れた。
その直後、福見は両手で顔を覆った。落胆とも悲痛とも取れる、今まで試合では見せたことのない表情に、どれほどショックだったか、まざまざとうかがえた。
「2年連続で勝ったということは、浅見がリードしたということでしょう」
大会後、園田監督は言った。
それは福見もわかっていた。だから負けたあとは先が見えなくなった。何を目標にすればよいのか――心は折れたも同然だった。
どうにもならないように思えた苦境から抜け出す手がかりは、自身の過去にあった。
高校2年で谷亮子に勝ったが、その後に訪れた試練の日々。
10年前。福見は高校2年生のとき、谷(当時は田村)亮子に勝利し、「新星の誕生」と注目を集めるようになった。しかしその後、大会で思うように結果を残せない時期が続いた。
'07年、再び谷に勝ったものの、実績を理由に同年の世界選手権代表には選ばれず、実質的に北京五輪への道も閉ざされた。
「自分はここで終わっていくのか」
過去2度にわたって、迷路に入り込んだ。
そのたびに自分はどうやって立ち直ったのかを思い起こした。自分はどうありたいのか、どうしたいのか、どれだけ苦痛でも自問自答を繰り返して脱け出してきた。
「ロンドンへの道が閉ざされた絶望に打ちのめされている今こそ、自分をみつめるべきだ」
やがて、ひとつの思いに至る。
「家族、まわりの先生方、自分を支えてくれている人々を裏切れない。なによりも、自分を裏切れない」
20年近く柔道に打ち込んできた。ここであきらめたら、その時間が台なしになる。
成績を気にするあまり、自分自身を出せていないことにも気づいた。培ってきた前へ出て積極的に攻める柔道ができなくなっている。自分の柔道を出し切りたい。
そう思ったとき再び前を向くことができた。