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<柔道女子48kg級代表の諦めない心> 福見友子 「幾度の挫折を乗り越えて」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAsami Enomoto
posted2012/07/19 06:02
新聞にも「(福見は)観念した様子」と書かれたが……。
「代表争いは決した」
パリでの世界選手権から3カ月後の'11年12月、福見は前月に負った左足首の捻挫をおして、グランドスラム東京に出場する。再び浅見との対戦となった決勝で、福見が小外刈で一本負けを喫すると、そんな声が上がった。
浅見も世界選手権優勝では見せなかった笑顔を浮かべた。
「ロンドン五輪で優勝することが目標なので、喜んでいる暇はないと思っています」
新聞紙面にも「(福見は)観念した様子」と書かれ、ロンドンへの道は閉ざされたと周囲が捉える中で、ただ一人、そう思っていなかったのは福見本人だった。
「代表争いをあきらめることはありません。こういった経験は何度も味わっているので、最後までやりきるだけです」
世界選手権の挫折から立ち直った心は、再び敗れても動じることはなかった。そして年明けの1月の国際大会ではついに浅見を破る。浅見が不在だった2月の国際大会も優勝し、ロンドンへの可能性をつないでいった。
残すは選抜体重別選手権のみ。大会が近づくと福見は緊張に襲われた。その中で思った。
「世界選手権までは消極的な、弱い自分がいた。でも今度は、自分の柔道を出し切りたい」
宿敵の初戦敗退にも動揺せず、組み手が冴え選考大会で優勝。
5月13日、運命の日がやってきた。
1回戦の山崎珠美との試合で、先手、先手と攻める積極的な柔道で、合わせ技一本勝ち。そのとき、隣で同時に進行していた試合で、思わぬことが起きた。浅見が高校3年生の岡本理帆に旗判定で敗れたのだ。
むろん、福見は浅見との決勝での対戦を想定していた。一方で、勝負に絶対はないとも考え、誰が勝ち上がっても対応できる準備をしていた。「自分の柔道をしたい」、その思いが動揺を防いだ。
2回戦では、昨年の大会で優勝した難敵、山岸絵美と対戦し、寝技に持ち込んで一本勝ちをおさめる。
決勝は、浅見を破った岡本が勝ち上がってきた。この試合で誰もが「上手い」と評価する福見の組み手の技術が生きる。岡本は奥襟を取れば力を発揮する。浅見も執拗に奥襟を取られて技をかけられ、岡本に敗れた。福見は引き手の操作で容易に奥襟を取らせない。その中で背負投げ、足技などで仕掛けていく。ポイントこそ奪えないものの、優勢のまま試合は進む。旗判定は3-0。
重圧がのしかかる選考大会で、前に出る自分の柔道を出すことができた。
それがうれしかった。