濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
アカデミー賞監督がひと目ぼれした、
女性格闘家ジーナ・カラーノの肉体美。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by(C)2011 Five Continents Imports, LLC. All rights reserved
posted2012/07/29 08:01
スティーブン・ソダーバーグ監督作品『エージェント・マロリー』(洋題『ヘイワイヤー(Haywire)』)で初主演を果たしたジーナ・カラーノ。2009年に出場したストライクフォース以後は試合には出場しておらず、女優業に専念している。
アメリカにおけるMMA(総合格闘技)人気の高まりは、映画界にも影響を与えるまでになった。『ロッキー』のボクシング、『メジャーリーグ』の野球のようにMMAそのものを題材とした映画が作られると同時に、MMAファイターの映画出演も相次いでいる。
B級アクションではなく、大作への出演も増えた。PRIDEで活躍し、UFCでもライトヘビー級王者になったクイントン・“ランペイジ”・ジャクソンは『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』でメインキャストの一人を演じ、UFC殿堂入り選手であるランディ・クートゥアは『エクスペンダブルズ』でシルベスター・スタローンと共演。
9月28日に日本公開されるサスペンス・アクション『エージェント・マロリー』では、女子格闘家ジーナ・カラーノが主演デビューを果たしている。
ジーナはアメリカで最も有名なMMAファイターの一人。いわゆる“美女アスリート”だが、キャリアも一級品だ。エリートXC、ストライクフォースといったメジャー団体で戦績を重ね、その試合はCBSで地上波中継されたこともある。MMAというエクストリームなスポーツを女性がやっている珍しさに加え、彼女の父親がダラス・カウボーイズのクオーターバックだったことも話題となった。メディアはこぞって彼女を取り上げ、ペプシコーラのCMにも抜擢されている。
ジーナ・カラーノの魅力に惚れ込んだソダーバーグ監督。
そんな彼女の試合を見て、いきなり主演オファーを出した映画監督がスティーブン・ソダーバーグだった。
『セックスと嘘とビデオテープ』でカンヌ映画祭パルム・ドール、『トラフィック』でアカデミー賞を受賞したアーティストであり、『オーシャンズ』シリーズのヒットメイカー。脇を固めるのもユアン・マクレガー、マイケル・ダグラス、アントニオ・バンデラスと一流の俳優ばかりである。そんな映画で、MMAファイターが違和感なく主役を務めているのだ。
陰謀に巻き込まれた凄腕の女スパイが逆襲に転じるという筋立てはいたってシンプル。見どころは当然、カラーノがスタントマンなしで演じた格闘アクションだ。パンチやヒジ打ちはもちろん、腕ひしぎ十字固めや三角絞めも披露されている。
ただ、“MMAアクション”は本作の見どころの一つでしかない。映画を引っ張るのは時間軸が入り乱れた構成や一切のセリフを省いて描かれる人質救出シーンなど、ひねりを効かせた演出だ。
『エージェント・マロリー』は“人気格闘家の主演作”である以上に“個性派トップ監督ソダーバーグの最新作”なのである。MMAファイターのカラーノがMMAの技を使うのは当然のことだが、しかしそれ以上でもそれ以下でもない。あくまで映画の中に溶け込んでいるのだ。