自転車ツーキニストのTOKYOルート24BACK NUMBER
神田川に沿って“東京横断旅行”。
フォークソングの銭湯は、今も健在か?
text by
疋田智Satoshi Hikita
photograph bySatoshi Hikita
posted2010/05/14 06:00
聖橋の上から深い谷底を眺めつつ。
都営荒川線から離れていくと、神田川は関口芭蕉庵、椿山荘などと続く、目白界隈のちょっと高級な地域を流れていくことになる。
このあたりは神田川沿いにずっと桜が植えられていて、シーズンになると花見客で賑わうエリアなのだそうだ。桜も散った今は、静かに閑散としていて、落ち着いた山の手の風景である。
桜並木のエリアを過ぎると、いつのまにか頭上が首都高になる。江戸川橋の交差点から先では、その頭上の首都高が、数本、交わったり離れたりする。少々薄暗い。
こうなると「風情」などいうものは、すべて雲散霧消し、川はひたすら都会の水の通路だ。
水道橋の駅を過ぎると、外堀へと水路が分岐する。江戸城という城は、神田川の水を外堀に使っていたのだね。なるほど。
そばを中央線と総武線が通るようになる。
井の頭線、西武線、そして、都営荒川線と、鉄道の横を通ってきた神田川は、こうして、JRの大動脈の横を流れる大きな川になる。こうなると、もう神田川の旅の終わりも近くだ。
御茶ノ水駅、聖橋から神田川を覗いてみる。
このあたりは高台になっているんで、必然的に川が低い。実は江戸時代に掘り込まれたのだそうで、神田川というのは、こうして本郷、お茶の水の台地をむりやり通したのだという。
だから聖橋から下を覗くと、ちょっと低い位置にオレンジの電車とレモン色の電車、そして、かなり低い位置に川が流れるという格好になる。私はここに来るたびに、さだまさしの「檸檬」という歌を思い出すのだが、その歌詞を知っている人も、もはやそんなに多くはないのだろう。
帝都の幻「万世橋駅」の不可思議。
お茶の水の坂を下ると、秋葉原になる。
秋葉原のちょっと外れを流れる神田川は、横ちょが、少々謂われのありそうな煉瓦の壁で囲まれている。
この煉瓦の壁、ちょっと豪華すぎるようにみえるのは、それもそのはず、元はといえば「万世橋駅」という駅だったのだそうだ。
もともとは帝都のターミナル駅として発展するはずだった万世橋駅だったけど、その地位をまずは東京駅に取って代わられ、その後、秋葉原駅に取って代わられ、しまいには廃駅となってしまった。地下鉄銀座線の駅もあったのに、ちょっと気の毒な歴史の駅なのだ。
で、川を覗き込んで、よくよく見てみると、かつての「万世橋駅」の名残なのかどうか、ヘンなものを発見したぞ。橋の欄干のすぐ近くに階段と窓。
何に使っていたものなのか、見当もつかない。ちなみに上段の地上は公衆便所である。一説によると下段の謎の階段も、かつてはトイレだったのだという。
ふーむ、本当かどうかは分からないのだけど、知りたいようで、実は、あまり知りたくない。こういうのって、けっこう知らないうちが花というか、色々想像している方が楽しい。今でも地下には巨大な万世橋駅が眠っているとか、地下帝国に通じているとかね。
知ってしまうと、なーんだ、そんなもんか、と、がっかりしてしまうことが多かったりするものだから。
万世橋の万世は「肉の万世」の万世でもある。かつサンドの万世だね。橋のたもとには、その名の通り、肉の万世本社ビルが屹立している。けっこうデカい。堂々としていて「我こそ秋葉原の象徴」という風情だ。