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<ナンバーW杯傑作選/'95年8月掲載> 加茂周 「若手よ、みんな伸びてこい!」 ~代表監督就任後の独占インタビュー~
text by
小林達彦Tatsuhiko Kobayashi
photograph byHatsuhiko Okada
posted2010/05/12 10:30
監督を続けるなら、協会に提示したい条件がある。
――そうですね、過去では、新監督が就任するたびにチームを一からつくり直すみたいなことがありました。
「そう。だから、それは絶対避けなきゃいけない」
――ところで正直な話、どうなんですか、ここまできたら12月以降も……。
「引き受けた以上、11月まではベストを尽くしますよ。だから、あれが足りない、これが足りない、ああやってほしい、こうやってほしいということは、いまは一切言わないんです。だけど、12月以降も監督をやるとしたら、これからいくつかの条件を協会に飲んでもらわないとだめだと思っています」
――それはどういうことですか。
「選手の取り扱いとかね、拘束できる時間とか、それからメディカルのシステムとか、練習場確保の問題とか、さらには海外に出かけていくだけの費用の予算を組んでもらわないといかんし、それだけの期間を空けてもらう必要もある。まあ、いろんなことがありますよ」
――そうですね。それほどすべてが急にできるという問題でもないし。
「そう。だから早めに話をしなければ。協会が『いや、加茂、お前、そこまでできないよ』『それじゃ辞めますわ』となったときに、あとが困るんですよ。次の監督の候補が、少なくともズラッと並んでないとおかしいんですよ」
キック力が伸びれば、やり方は当然変わってくる。
――ところで加茂さんの目指すモダン・サッカーとはどんなサッカーなんですか。
「まずはボールを奪ってからフィニッシュに行くまでの時間が短いサッカーですね。もちろん深いところでボールを奪っても、攻撃を組み立てて、フィニッシュまで持っていけなければならないわけです。だけど、スピードを上げるということは、それに伴う技術とコンディションがなかったらできないんですよ。トップスピードで走ってると、その選手の足にピーッとパスが行かないと、選手は止まっちゃうんだから。しかもパスが後ろに来たら、止まって振り向かなければならないわけですよ。
できるだけスピードに合わせてボールが前へ出ていかないとできないわけで、非常に緻密で効率のいいサッカーということになります。さらにはフィニッシュの場面で1対1の勝負とか、1対2の勝負である程度のことができないとだめなんです。だから、自分がボール受けたときに、これは仕掛ける球か、繋ぐ球かという判断が重要になってきますね」
――なるほど。
「基本的に、日本人は一方のタッチラインから逆サイドのタッチラインまでズバッと60m近く鋭いパスができる選手がいない。そうしたら日本の場合、サイドを変えるのにどうしてもワンクッションが必要になる。そのぶん時間がかかるわけです。ここでの時間を減らさなければならないわけですよ。そのうち日本人の筋力とかテクニックが伸びてきて、キック力が伸びれば、当然またやり方は変わってくるはずです」
――話は非常に単純ですね、逆にいうと。キック力というか。
「そうですよ。サッカーなんかそんな難しいことないんですよ。非常に単純なもんです」