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沢村賞投手はなぜ翌年不調になる?
田中将大、頂点に立つ男の苦悩。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byTakashi Shimizu
posted2012/05/09 11:55
復帰の目処がまだ立たない田中将大。「こうなった以上は焦っても仕方がない」と本人は黙々と二軍で練習に励んでいる。「交流戦明けの6月下旬から」という報道もあるにはあるのだが……。
「選ばれしものの不安」が徐々に心と体を歪めていく。
田中が腰痛により戦線を離脱したのは、そんなことを考えていた矢先だった。やはり、フォームがしっくりこないまま、それでも抑えてやろうと力んだ結果だろう。
やはり一度トップに立った人間が、その後もトップに居続けるということは、かくも難しいものなのだ。
田中だけではない。それを証明するかのように、ここ数年、沢村賞を獲得した投手の多くは翌年、成績が落ち込んでいる。
ここ10年で、前年並みか前年以上の成績を残したのは、'03年の上原浩治、'08年のダルビッシュ有、'09年の涌井秀章ぐらいだ。しかも、上原も'99年に初めて沢村賞を受賞した翌年は、20勝から9勝と大きく成績を落としている。
もちろん、たくさんの勝ち星を挙げられたということは相応の運もあったのだろう。それだけに、2年も続けて幸運に恵まれることはないというのもある。
また、それだけ活躍したということはそれだけ疲労が蓄積しているということでもあるし、相手チームに重点的に研究されたということも考えられる。
しかし、それらと同等かそれ以上に「これ以上、どうやったら上に行けるのだろう」という「選ばれしものの不安」とでも言うべきものも、精神やフォームの歪みにつながっていたように思われるのだ。
「2~3日天気がよかったら、その後は警戒しなければならない」
先日、ある登山家がこんな話をしていたのを聞き、思わず膝を打った。
「たとえば2~3日天気が良かったら、その後は、警戒しなければならない。ずっと良いということは絶対にないんです。地球の法則なんでしょうね。それはもっと長いスパンでも言えることなんです。冬にものすごく天気が安定していた年は、夏に荒れる。そうやって自然は常にバランスを取ろうとするものなんです」
良い成績を残し続けるということは、そもそも、その地球的バランスに抗う行為でもあるわけだ。そう簡単であるはずがない。