プレミアリーグの時間BACK NUMBER
打倒バルセロナを果たした原動力。
CL決勝に臨むチェルシーの武器とは?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2012/05/10 10:31
バルセロナに引導を渡すゴールを決めたF・トーレス。プレミア史上最高の65億円で移籍しながら不遇をかこっていた男が、土壇場で大きな仕事をした。
ファンのツイートには「拷問」「絶望」という文字が。
ホームでは、ディディエ・ドログバによる虎の子の1点を守ったものの、カンプノウでは、バルセロナの勝利が常識だ。
案の定チェルシーは、前半にして合計1-2と逆転された。しかも、37分以降は10人。狂気の膝蹴りで問答無用の一発退場を命じられたのは、キャプテンにしてCBというチームの要、ジョン・テリーだった。コンビで先発したギャリー・ケーヒルは、12分の時点で負傷退場となった。右SBで先発していたブラニスラフ・イバノビッチの相棒として、中央に投入されたのはジョゼ・ボシングワ。本職の右SBでさえ守備が心許ない選手だ。
容赦なく押し寄せる、バルセロナの波状攻撃。ぺトル・チェフがセーブを連発し、アシュリー・コールが第1レグに続くライン上クリアを見せても、防波堤決壊は時間の問題と思われた。楽天的なはずのサポーターでさえ悲観的だった。チェルシーファンのツイートには、「拷問」「絶望」といった文字があった。
極端な見方をすれば、退場者を出したことさえプラスに働いた!?
だが、選手たちは信じ続けた。
前半ロスタイム、ランパードがスルーパスを狙った。反応したのは、右SBに回っていたラミレス。ブラジル代表MFはシュートに難がある。約1メートルの距離から決め損ねた、準々決勝第2レグでのシーンが脳裏を過ぎったファンは、筆者だけではなかっただろう。ところが、ラミレスは、チップキックでビクトル・バルデスの頭越しに、貴重なアウェイゴールを決めた。自身のテクニックを信じていたからこその冷静なフィニッシュだ。
信じる者は救われる。実際、チェルシーには運も味方した。
極端な見方をすれば、退場者を出したことさえプラスに働いたことになる。
主力のベテラン勢は、今季を逃せばCL優勝を狙う機会はないと覚悟しているはず。数的な不利が、ラストチャンスに懸ける彼らに、100%の集中力とハードワークを徹底させたと考えられる。また、相手がバルセロナでなければ、実質的に8-1-0の陣形で守るチームに対し、頑なに狭いスペースでショートパスを交わそうとはしなかっただろう。より具体的な幸運は、ゴール枠に救われた2度の窮地。リオネル・メッシによるシュートとPK失敗だった。
だが、この幸運は、敵が己を信じ切れなかった事実をも示していると思われる。