プレミアリーグの時間BACK NUMBER
打倒バルセロナを果たした原動力。
CL決勝に臨むチェルシーの武器とは?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2012/05/10 10:31
バルセロナに引導を渡すゴールを決めたF・トーレス。プレミア史上最高の65億円で移籍しながら不遇をかこっていた男が、土壇場で大きな仕事をした。
メッシの心に生じた、自らのプレーに対する疑いとは?
第2レグ前のバルセロナは、チェルシーとの初戦、レアル・マドリーとのリーグ戦で連敗し、母国メディアに叩かれていた。結果的に第2レグ後に今季限りの退任を決めるペップ・グアルディオラ監督にとって、チェルシーは、バルセロナを率いて対戦した相手の中で唯一、勝利試合を記録していないチームだった。
グアルディオラはメッシを活かすチームを作り上げたが、肝心の主役も心に疑いが生じていた節がある。
今季は、1シーズンの得点数欧州記録「67」を39年ぶりに更新しているメッシだが、チェルシーに限っては、過去7度の対戦で無得点に終わっていた。加えて、第1レグでは、自身のロストボールが失点のきっかけとなった。第2レグで、チームメイトへのファウルに怒りを露にして受けた警告は、自身に対する苛立ちが招いたものではなかったか?
一方のチェルシーでは、ベンチスタートの脇役も「信じる力」を維持していた。80分になって出番を与えられた、フェルナンド・トーレスだ。
最後まで信じ続けたトーレスは、決して足を止めなかった。
ドログバとの交代ではあったが、実際の持ち場は2人目の左SBも同然。にもかかわらず、トーレスは決勝進出を確定するゴールを決めた。クリアを拾ってカウンターに転じることができたのは、直前のドリブル失敗に諦めて足を止めず、微かな望みを信じてさらに前へと足を進めていたからだ。
トーレスには、今季序盤のマンチェスターU戦で、無人のゴールを前にシュートを外した過去がある。バルデスをかわした後も、慎重を期して「もう1タッチ」と、心の中で叫んだファンもいたに違いない。だが、トーレスは、ひらりと飛んで着地するや否や、がら空きのゴールにボールを蹴り込んだ。