プレミアリーグの時間BACK NUMBER
打倒バルセロナを果たした原動力。
CL決勝に臨むチェルシーの武器とは?
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byAFLO
posted2012/05/10 10:31
バルセロナに引導を渡すゴールを決めたF・トーレス。プレミア史上最高の65億円で移籍しながら不遇をかこっていた男が、土壇場で大きな仕事をした。
チェルシーのCL決勝進出が決まった直後、在籍11年のベテランMF、フランク・ランパードは言った。
「世間の人は“ビューティフル・フットボール”が観たいと言うのだろうけど、チェルシーの選手として過去最高の瞬間だ」
たしかに、チェルシーのサッカーは美しくなかった。アンドレ・ビラスボアスが指揮を執り続けていれば、バルセロナに真っ向勝負を挑んでいたかもしれない。今年3月、就任8カ月で解雇された前監督は、ショートパスを主体に攻める「美学」にこだわる指揮官だった。
しかし、暫定で後を継いだロベルト・ディマッテオ監督の任務は、最大限可能な結果を残すこと。バルセロナの壁を越えれば、その先には、PK戦で敗れた2007-08シーズン決勝の雪辱と、クラブ史上初のCL優勝に挑む決勝の舞台がある。なりふり構わず、守備力で対抗し、カウンターに勝機を見出すのが、唯一にして最善の策だ。チェルシーは、ホームでの第1レグから、4-5-1システムでの守備的な戦いを貫いた。
表面的には醜く、バルサに劣ってはいたが、「信じる力」は強かった!
無論、相手国のメディアには酷評された。だがディマッテオが、「2試合とも負けていないし、点を取って勝った。我々こそが勝者だ」と語ったように、後ろめたさを覚える必要はない。3年前の準決勝対決では、2引分けの末にバルセロナがアウェイゴールで辛くも勝ち上がった。対して今回のチェルシーは、1対0、2対2と、合計3対2のスコアで、堂々と180分間の戦いを制したのだ。
そして、勝利を目指すチェルシーの姿は美しかった。
表面的には醜く、バルセロナに劣っていても、内に秘めた「信じる力」は、純粋で、敵を凌ぐものだった。ランパードの言葉を借りれば、「折れない心」の勝利。だからこそ、バルセロナを相手に彼らが選択した堅守優先のスタイルは、8年前にジョゼ・モウリーニョ(現R・マドリー監督)の下で体得して以来、「消極的」と辛口だった国内メディアにも「勇壮」と讃えられた。