プロ野球亭日乗BACK NUMBER
攻撃的2番打者・坂本勇人の誕生が、
日本野球の既成概念を打ち砕く!
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2010/04/20 10:30
昨年5月以降1番に入った坂本は最終的に打率.306、18本塁打をマーク。4年目となる今季の目標には、3割超えとともに20本塁打を掲げる
2番打者の役目とは一体、何か?
V9時代の巨人で一番多く2番を打ったのが故土井正三内野手だった。1番の柴田勲外野手が出塁すれば、2番の土井は確実にバントや右打ちで走者を進める。これが典型的な2番打者の役割とされ、長く日本の野球は「犠牲的2番打者論」が支配してきた。
それではメジャーはどうなのか?
今はメジャー最強打者といわれるアレックス・ロドリゲス内野手も、かつては2番を打っていたことがある。ヤンキースでは今季は1番を打っているが、デレク・ジーター内野手も昨年までは、ずっと2番を打っていた。もちろんジーターは犠牲心に富み、送りバントも厭わない2番打者だったが、実はもっと攻撃的な意味合いで歴代監督はジーターを2番に据えていた。
エンドランを戦法の主体とした一、三塁を作る「攻撃的2番打者論」。それがメジャーにおける2番打者の主流の考え方なのだ。
坂本―松本の打順を入れ替えるという選択肢。
前々から「坂本=ジーター説」を唱えているから言うわけではないが、巨人の坂本勇人内野手にも、この「攻撃的2番打者論」が当てはまるのではないかと考えている。
「将来的には3番を打たせたい」
巨人・原辰徳監督の坂本育成構想だ。
その前段階として選択した打順が1番だった。あまり制約をつけずに思い切ったバッティングをさせたい。この打順に坂本を据える理由はそこにある。昨年、今年と坂本もその期待に応えて、結果を残している。
ただ、巨人にはもう一人、格好の1番打者がいるのだ。昨年ブレークして新人王にも輝いた松本哲也外野手だ。
坂本―松本の1、2番コンビ。これは昨シーズン後半から巨人の攻撃の一つの核を形成する強力布陣となっているが、まだまだ進化の可能性を秘めている。より破壊力を増すために、このコンビの順番を入れ替えるという手があるのではないだろうか。
坂本は、松本を生還させる攻撃的2番打者になれる。
実は1番・坂本にあえて弱点を探すとすると、その出塁率の低さが挙げられる。打率3割6分3厘(4月14日現在、以下はすべて同じ)をマークしながら、出塁率は3割5分8厘。開幕から17試合を消化して、まだ四死球が1つもない。
一方の松本は打率4割8分5厘と驚異的な高率以上に、出塁率は実に5割1分4厘! 2打席に1回以上の割合で塁に出ている。しかも、俊足を生かして盗塁も9個。これを生かさない手はないはずだ。
松本を1番に置けば、バントは不要に近い。かなりの確率で無死二塁という形を作れる上に、二塁走者が松本ならばワンヒットで生還できる可能性も非常に高い。もちろんエンドランで一、三塁を作るという「攻撃的2番打者論」の基本戦術も有力選択肢となる。
実はこのオーダーが組めるのは、2番打者の能力が高いことが必須の条件なのだ。だからジーターでありA・ロッドだったわけだが、坂本も今季3割5分を超える打率を残し、潜在能力の高さは折り紙つきである。その坂本の高い能力と松本の走力を最大限に生かす最強のオーダー。それが松本―坂本という1、2番コンビとなるわけだ。