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ペトロビッチが目指す新戦術とは?
槙野智章が語る、新生レッズの全貌。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byAFLO
posted2012/03/14 10:30
今季から浦和の指揮を執っているミハイロ・ペトロビッチ監督。2006年から広島で監督を務め、槙野の他、柏木陽介、森脇良太などを育てた。
他のポジションの思考を理解する練習で組織力を高める。
ではペトロビッチ監督の場合、3バックが攻撃参加してもなぜ組織が破綻しないのか? 秘密は普段の練習にあった。
「ペトロビッチ監督がよくやるのは、ゲーム形式の練習で本来はDFの選手にFWをやらせたり、逆にFWの選手をDFのポジションにつかせたりすること。本職とは異なる位置でやることによって、みんなが他のポジションのやり方を理解する。それがないと、あのサッカーは成立しない。たとえば、3バックの僕が左サイドを上がって行ったときは、ボランチの選手がすぐにDFラインの位置に下がる。そうしたら逆サイドの選手がボランチをカバーする。誰が動いたら、誰がどうカバーするのか。いい関係でスペースを埋め合っています。それを成熟させるには時間もかかるんですが、みんなが頭を使ってプレーすれば必ずできるようになると思います」
攻撃のときにボールをどう運ぶかも、両者は異なるアプローチを取っている。ザックがとにかく縦に速く攻めることを意識して効率的なパターンを身につけさせようとしているのに対して、ペトロビッチは「考えて走る」ことを求めている。
パスをつなげるためには「考えて走る」ことが肝要。
「ペトロビッチ監督は、こう選手たちに投げかけるんです。『ゴールを決めるためにパスをまわしている。でもパスがつながるには、人が動かないといけないし、何より頭を使わないといけない。単に300、400メートル走るより、考えて10メートル走った方が何倍も意味がある』って。僕がオーバーラップするんだったら、『ゴールを奪うためには、右と左どちらにいけばいい? 頭を使え。ゴールに近い方向へ走らないといけないだろ』と。最初は何がなんだかわからなかったし、複雑すぎて難しいなって思っていましたけど、今ではもうその意味がわかります」
通常、チームに組織を覚えさせる練習は一度やったらあまり繰り返さない監督が多いが、ペトロビッチ、ザック、ソルバッケンは徹底した反復練習でコンセプトを覚え込ませようとする。ただひとつ異なるのは、ザックとソルバッケンが守備の反復が多いのに対して、ペトロビッチは攻撃の反復が多いということだ。
「ソルバッケン監督だったら、先ほども言った『DFラインからFWまでを25メートルに保つ』ということをずーっとやるわけです。ピッチの縦の長さが約105メートルですから、いかに狭い範囲に保つのかがわかりますよね。ザッケローニ監督も代表なので時間が限られているということがあるかもしれませんが、守備の確認が多い。一方、ペトロビッチ監督は攻撃が主体のサッカーなので、コンビネーションの練習として3対2とか3対3を毎日のようにやるんです」