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4年連続最下位球団に必要なものは?
DeNA中畑監督が持つ、大乱世の才。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2012/02/23 10:31
練習試合で楽天に敗れた際、「最後まで諦めない、お客さんの足を止める野球はできたんじゃないか。これを続ければ、奇跡も起こせる気がする」と語った中畑清監督
まるで、熱血監督が就任したばかりの高校野球のワンシーンを見ているようだった。
「おはようって言ったら、おはようって返せよ!」
キャンプ序盤のことだ。DeNAの監督・中畑清が、そう選手たちを叱責した。
就任以来、中畑が繰り返し言い続けていることは、要は「まずは元気を出せ」ということだ。
「プロ野球なのに……」と眉をひそめる人もいるかもしれないが、それを言える時点で、今回のDeNAの人選はひとまず成功だったと言えるのではないか。
かつて、女子バレーボールを復活させ、しかし、その後はぱっとしなかった監督の柳本晶一のことを、あるバレーボール担当記者がこう評していたことがある。
「柳本さんは劇薬なんですよ。だから、低迷しているときは効く。でも、チームがある程度の段階にくると、効き過ぎて、逆に選手の反感をかってしまうことがある」
確かに、政治の世界もそうだ。
幕末に大活躍した坂本龍馬や高杉晋作は、あの時代だからこそ、働き場所を得たのだという考え方がある。動乱期に必要な人材と、安定期に必要な人材は違うのだ。
自民党の金丸信も、総理大臣を選ぶ際の指針として、こんな言葉を残している。
「無事の橋本、平時の羽田、乱世の小沢、大乱世の梶山」
この評は、あくまで向き不向きを論じているのであり決して「格付け」ではない。
「大乱世」にこそ真価を発揮する楽天・星野監督の辣腕。
野球に話を戻せば、2002年に阪神の監督に就任し、「ダメ虎」と酷評され続けたチームをわずか2年でリーグ優勝に導いた星野仙一もまた「大乱世」に効力を発揮する劇薬だった。
だがその一方で、全日本チームの監督として指揮を振るった'08年の北京オリンピックでは、その手腕を発揮し切れなかった。
一線級の選手がそろうチームは、金丸の言葉を借りれば「無事」であり「平時」だ。自ら率先して何かを起こすのではなく、選手たちに「任せる」、あるいは「待つ」という采配が要求される。そこへいくと、星野のイメージとは合わない。'09年のWBCで日本を連覇に導き、名声を得た巨人の監督、原辰徳の方が、そうしたエリートの扱いにははるかに慣れているような気がしたものだ。