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阪神・一二三慎太の決断は報われる!?
投手から野手に転身する事例を検証。
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2012/01/22 08:01
「もうピッチャーに未練はない。ピッチャーでは無理だったけど、野手ならリハビリしながらやっていけると思う。もう自分は野手って決まりましたので、今年は野球に没頭したい」。鳴尾浜での自主トレで1月から始動している一二三慎太選手
イチかバチかの人生の選択である。
2年目を迎える阪神・一二三慎太が野手へ転向することを決めた。東海大相模高校時代は、エースとして3年夏の選手権大会で準優勝。右肘を下げて投げ込む彼の姿は、本来のポテンシャルからすれば物足りなかったとはいえ、当時の高校生を代表するピッチャーの一人だった。
その一二三が右肩の故障が癒えないことを理由に、投手を断念し、野手に転向するのだ。大きな賭けであるし、『投手・一二三』を失うことは日本の野球界にとっては損失である。
だが、一二三には、もうひとつ、こんな声があったのも事実である。
「一二三はバッターとして将来性のある選手」。
高校3年の夏の甲子園で、5番打者として6割もの打率を残したバッティングへ期待を掛ける声が少なくはなかったのだ。阪神が「投手・一二三」の実績を尊重したのに対し、ある球団のスカウトは「打者・一二三」として評価していたのである。
評価を二分するほど、投打に渡っての将来性が、一二三にはあった。
楽天・片山は投手に踏みとどまったことで頭角を現した。
ただ、それは一二三に限ったことではない。毎年のように、たくさんの逸材たちが溢れる才能に、選択に迫られ、大きな決断をしてきた。成功した者もいれば、そうでない選手もいた。また、あるいはプロ入団後に転向して、成功させた選手もいた。
「スカウトとしては、自分が担当した選手が転向を余儀なくされるのは、嬉しい話ではないよ。こっちは、それとして評価をしているんやから。現場が判断するんやけど、球団の状況、コーチの力量、選手の意思、いろんな要素が重ならんと(転向は)難しい選択だと思う」
そう語るのは、楽天の吹石徳一スカウトだ。これまで、近鉄と楽天で多くの逸材を担当してきたベテランスカウトマンは、自身の経験則を話してくれた。たとえば、2005年高校生ドラフト1巡目で獲得した片山博視は、ピッチャーとして勝負させるか、バッターとしてか、賛否両論のある選手だった。吹石スカウトは、当時の片山を投手として評価。ところが、一時、伸び悩んだ片山には打者転向の噂が出たこともある。
「高校時代から片山のバッティングは良かった。4番を打っていたくらいだしね。プロでもそこそこできると思ったけど、あいつには足がない。左投げでしょ。守るところがない。190センチあるわけだから、ピッチャーとして期待するのは当然。一時期は、転向の噂もあったけど、活躍してくれている」
片山は投手として踏みとどまり、'10年に頭角を現すと、楽天にとって欠くことのできない中継ぎ投手になりつつある。吹石スカウトの眼力は間違いではなかった。