MLB東奔西走BACK NUMBER
メジャーに挑む青木、中島、川崎……。
日本人野手が学ぶべき“常識”とは?
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2011/12/10 08:01
2004年にカージナルスで打率.291の成績を残し活躍した田口壮。だが、彼も入団当初は、メジャー特有のムービングボールになかなか対応できず、苦悶の日々を送っていた
メジャー流バッティング理論の“常識”を体得せよ。
このコーチの理論は何ら新しいものではなく、米国の野球界の“常識”だ。自分も何度もメジャーの取材をしながらコーチたちが同様の指導をしているのを目撃している。そして彼らがよく使う表現方法に「Stay behind the ball.」というものがある。直訳するなら「ボールの後で待て」となるが、野球技術論的に訳するならば「ボールを手元まで引き寄せろ」となるだろう。
かつてカージナルス在籍時代の田口壮選手から打撃理論について話を聞かせてもらったことがあるのだが、その時に彼流の表現で「ボールのお尻を叩く」と説明してくれたのを今も鮮明に憶えている。表現は変わってもその理論はまったく同じだ。さらに当時の田口は、日本人野手が1年契約で結果を残すのは難しく、数年かけて慣れていかなければならないと話してくれた。
ツーシーム系の“動く速球”への対応が成功のカギ。
田口が海を渡った2002年当時、今では日本でも一般的になりつつあるカットボールやツーシームなどの“動く速球”は、メジャーでのみ主流だった。
だから、田口は手元で変化するボールに対応できず、約1年半のマイナー生活を送る。そこで、メジャー流のバッティングを体得し、メジャー定着後は日本とほぼ変わらない成績を残すことができた。
メジャーに挑戦したばかりの頃の松井秀喜選手や松井稼頭央選手が内野ゴロを打つ場面が多かったのも、田口と同じ理由に他ならない。その一方で井口資仁選手や岩村明憲選手のように、メジャー1年目からまずまずの成績を残せたのは、彼らが日本時代からボールを引きつけて反対方向に打つバッティングを持ち味にしており、よりメジャー流のバッティング理論に近かったからだろう(もちろん彼らもメジャーに適応できるように細かい部分で修正しているのも間違いないだろう)。
捕手の想像を超えた、バリー・ボンズのミートポイント。
このバッティングにおける日米差にまつわるちょっとしたエピソードを紹介しよう。
日米野球である日本人捕手がバリー・ボンズと対戦したときのことだ。2ストライク(正確なカウントはわからない)と追い込んでから、投手からの球を捕球しようとしたその捕手は、これまで数々の打者と対峙した自分の感覚でボンズが見逃し三振したと思ったという。
しかし、そこからボンズのバットは振り抜かれ、打球は外野席まで飛んでいき本塁打になったというのだ。もちろんボンズの驚異的なバットスピードもあるだろうが、メジャーの一流打者は、日本人選手の想像を超えたポイントまでボールを引きつけることができるということでもある。だからこそ150キロを超す“動く速球”を投げ分けるようなメジャーの投手たちにも対応できるのだ。