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満を持してメジャーに挑む中島裕之。
「気にしない力」で成功をつかむ!
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2011/11/30 10:30
以前は失策も多かったが、2008年と2011年にはゴールデングラブ賞も受賞している中島裕之。外国語が堪能でもないのに海外での一人旅が好きで、過去にはアレックス・カブレラのいるベネズエラ、ヒラム・ボカチカのプエルトリコなどへ赴いている
メジャーで伸び悩む日本人内野手に足りないものとは?
そもそも、中島は「スランプ」という表現方法さえ嫌う。
「どっか感覚がずれてるなって思うことはある。そやけど、スランプとは思ってない。スランプなんて、周りがスランプ、スランプ言うから、思い込まされてしまうだけですよ」
この言葉は、どんな状況であっても、自分の精神状態を把握し、かつコントロールすることができるという自信の表れでもある。
メジャーに挑戦した日本人選手の中で、内野手だけはまだ目立った成功例がない。松井稼頭央も、井口資仁も、岩村明憲も、西岡剛も、決して失敗だとは思わないが、正直、物足りなさは残っている。
その理由のひとつとして、まず、守備でつまずいている点が挙げられる。西武時代は名手として鳴らした松井も、メジャー挑戦1年目、遊撃手で失策が目立ち、シーズン途中で二塁にコンバートされている。その松井が話す。
「人工芝だとタイミングが合わなくても入っちゃうことがある。でも、天然芝だとそうはいかない。足も使わなければいけないし、いつバウンドが変わるかもしれないので、そのぶん、慎重にならざるをえない」
だが、結局のところ、松井に足りなかったものは「気にしない力」だったのでないかとも思うのだ。
野茂が大成した理由は逆境を順境に変えた順応力だ。
日本人メジャーリーガーのパイオニアである野茂英雄は、あるインタビューでアメリカに渡り、しばらくはボールの違いにさえ気づかなかったと話していたことがある。だが、それは厳密には「気にしなかった」ということなのだ。
野茂がプロに入る前、アマチュア全日本の監督を務めていた山中正竹は、当時の野茂についてこんな思い出を語っていた。
「キューバに遠征にいったときだったかな。みんなは部屋が暑くて寝れないって文句を言うんだ。でもそんな中、野茂は天井に取り付けてあった扇風機の真下にハンモックを張って、そこで悠々と寝ていた。それを見て、こいつはなんてタフなやつなんだって思った。彼には逆境を順境に変える力があった」
技術はもちろんのことだが、そうした順応力の高さこそが野茂が大成した理由なのではないだろうか。