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MVP候補・内川を封じたチェンの好投。
主導権を掴んだ落合監督の“奇襲”。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/11/15 06:01
「1球1球に集中していたので三振の数は覚えていません」と語ったチェンは11個の三振を奪った。結局この試合では、チェンの他に浅尾が3個、岩瀬が1個の合計15三振をソフトバンクから奪い、シリーズ1試合での最多記録となった
ソフトバンク内川が抱く、チェンへの苦手意識。
これだけでも、チェンの好投の背景としては説得力がある。しかし、この対戦にはもうひとつ、欠かすことができないポイントが含まれていた。
それは、内川がチェンを意識し過ぎていたことだ。
横浜時代の通算対戦成績は34打数6安打の打率1割7分6厘。2009年に至っては17打数でわずか2安打と、両者の明暗ははっきりと分かれていた。
その内川は、最も苦手である投手として、真っ先にチェンを挙げたことがある。
「彼に関しては、『手におえない』のひと言です。僕以外のバッターがチェンを打った試合なんか、『なんで打てるのか意味が分からない』と言っていたくらいですからね。特に打てなかった'09年は、12球団で一番いいピッチャーだと思っていました」
交流戦で苦手意識は払拭できたかと思われたが……。
球界を代表するリーディングヒッターにそう言わしめたチェンではあるが、今季の交流戦では6打数4安打と、これまでの借りを返されてしまった。
この事実を踏まえて、内川の彼に対する苦手意識は解消されたのかとも感じられたが、初戦での打撃を見ている限りでは、一概にそう断定できないと認識を改めさせられた。
前述したように、谷繁の徹底したリードも功を奏したことは間違いない。だが、手元までボールを呼び込んで打つことを身上とする内川が、ホームベースの手前で捌き凡打に倒れるなど打撃フォームを崩されていた。それは、まだ完全にチェンへの苦手意識を克服できていない証左でもある。
内川が語った、チェンを不得意とする理由がそのことを物語っている。
「チェンの場合、投球動作がゆったりとしていて腕の振りもしなやかなんで、『打とう』と思ったときには差し込まれたり、逆にスイングの始動が速かったり。タイミングの取り方が難しいとは感じますね」
初戦での内川は、チェンの独特の投球フォームによってタイミングを狂わされた。