野球クロスロードBACK NUMBER
MVP候補・内川を封じたチェンの好投。
主導権を掴んだ落合監督の“奇襲”。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2011/11/15 06:01
「1球1球に集中していたので三振の数は覚えていません」と語ったチェンは11個の三振を奪った。結局この試合では、チェンの他に浅尾が3個、岩瀬が1個の合計15三振をソフトバンクから奪い、シリーズ1試合での最多記録となった
結果的に、中日が仕掛けた奇襲は成功した。
大方の予想では、日本シリーズ初戦の先発はエースの吉見一起だった。ソフトバンクも彼の登板を予測し、左打者の長谷川勇也を6番に上げ、福田秀平を先発で起用するという「吉見対策」のオーダーを組んだ。
ところが、中日の先発はチェンだった。
今季の交流戦では2試合に投げ2敗。防御率も5.25と、ソフトバンクに打ち込まれているチェンに初戦のマウンドを託したのは、おそらく連敗を避ける意図が含まれていたはずだ。相性が悪い彼で負けても、次の試合では吉見で必ず星を取る。だからといって、初戦を捨て試合にはしない。接戦に持ちこめば勝機はある――。2戦目を重要視する落合博満監督の思惑が如実に表れた先発起用だった。
落合監督が思い描いていた第1戦の青写真とは?
チェンは、指揮官が描く青写真通りの投球を披露した。
本人も、「最初は緊張して状態が良くなかった」と語ったように、4回に先制点を献上するなど序盤はリズムに乗りきれていなかった。だが、5回以降は相手打線を無安打に抑え、終わってみれば8回を投げ4安打1失点、11奪三振の好投。勝ち星こそつかなかったが、チームにいい流れをもたらした。
「谷繁さんのリードを含めてピッチングが修正でき、うまく抑えることができました」
試合後、チェンが振り返ったように、谷繁元信の好リードが彼の投球を支え、勝利を呼び込んだのは言うまでもない。
なかでも、このシリーズで「MVP候補」と目されている3番・内川聖一への配球は圧巻だった。
初回の1死二塁のピンチでスライダー。先頭で迎えた4回にフォーク。同じく先頭の6回にはチェンジアップと、打席ごとに異なる球種で攻め、そして無安打に封じ込めた。3度とも出塁を許せば得点機を与えてしまう場面だっただけに、相手の要注意打者を抑えられたことは何よりの収穫だった。