スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
戦力外の男たちがリーガで快進撃!
レバンテが過ごす「夢のシーズン」。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2011/11/04 10:30
本拠地「シウタ・デ・バレンシア」に飾られたレバンテの選手たちの巨大バナー。地元の盛り上がりを象徴している
レバンテの実力ではポゼッションサッカーは荷が重い!?
2人の若者の手で最大の危機を脱したレバンテは、クラブ創立100周年を迎えた2009-2010シーズンに3年ぶり史上4度目の1部昇格を果たすと、翌シーズンは14位で残留を達成。一時は8戦負けなしというクラブ新記録を打ち立てて9位まで順位を上げ、「1部最少チームの小さな躍進」として称賛を受けた。
こうして迎えた1部2年目の今季も、見通しは決して明るくなかった。3年間チームを率いたルイス・ガルシアがヘタフェに引き抜かれた上、昨季13ゴールを挙げたエースのカイセドを資金繰りのために放出したからだ。
「若く、攻撃的で、安い」という条件にかなう人材として選ばれたものの、新監督のフアン・イグナシオ・マルティネスは前任者より8歳上の47歳で、1部の指揮は未経験。しかも堅守速攻スタイルで結果を出した前任者とは違い、彼は「コントロール&パス」をモットーにDFラインから丁寧にパスをつなぐポゼッションサッカーの信望者だった。
大幅なプレースタイルの変更はリスクを伴う。そもそも格上がほとんどの1部リーグでそんなサッカーが通用するのか。そんな周囲の不安は、ヘタフェとの開幕戦を1-1、続くラシン戦を0-0で終えるうちに高まっていく。この2試合で手にした決定機はほぼゼロ。ある程度は守れるが、やはり点が取れないという開幕前の予想は正しかった、とこの時までは思われた。
リーグ2位の失点数、17ゴールで3位の得点力で懸念を払拭。
しかし、高齢化が案じられたハビ・ベンタ(35)、バジェステロス(36)、ナノ(31)、フアンフラン(35)が形成する最終ラインは昨季以上の安定感を見せ、9試合を終えてバルセロナの成績に匹敵するわずか5失点(10月27日時点。以下同様)。さらに得点力の低下が危惧された攻撃陣もバルセロナ、レアル・マドリーに次いで多い17ゴールを挙げているのだから驚きだ。
攻撃面の成功の陰には、「機能しているものはいじらない」との考えから昨季までの戦い方を継続したマルティネス監督の勇断があった。またカイセドが務めていたポスト役には、セビージャで戦力外となっていたアルナ・コネを移籍期限ぎりぎりで獲得。彼にボールが収まると同時に両翼のフアンルとバルド、トップ下のバルケロらが素早く縦のスペースに抜けだしていく速攻は、カイセドの個人能力頼みだった昨季のそれより破壊力を増した。Rマドリーやマラガ、ビジャレアルらDFラインを高く押し上げるチームはみな、このキレ味鋭い速攻に痛い目に遭わされている。