スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
戦力外の男たちがリーガで快進撃!
レバンテが過ごす「夢のシーズン」。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2011/11/04 10:30
本拠地「シウタ・デ・バレンシア」に飾られたレバンテの選手たちの巨大バナー。地元の盛り上がりを象徴している
他クラブで戦力外となったキャリア末期の選手達が行き着いた降格候補の貧乏クラブでプレーする喜びを取り戻し、第二の青春を謳歌しながら次々にビッグクラブを撃破していく。そんなアメリカ映画にありそうなコテコテのスポーツ群像劇が今、リーガ・エスパニョーラのレバンテを主役に現実のものとなっている。
年間予算2100万ユーロは1部最少、選手全員の年俸総額800万ユーロはリオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウド1人分にも満たない。36歳のDFバジェステロスを筆頭に、メンバーの大半は前所属クラブで戦力外となり、移籍金ゼロでレバンテに入った30代のベテランだ。8節マラガ戦では先発した11人中9人が30代で、リーガ最年長イレブンの記録を更新する平均31.45歳を数えた。
そんなチームが世界一の金持ちクラブ、レアル・マドリーを相手に大金星を挙げた上、その後もクラブ史上初の7連勝と快進撃を続けて一時は単独首位にまで立ってしまったのである。これは一大事である。
破産寸前の青息吐息から経営再建の第一歩を踏みだす。
当事者達すらも予想していなかった大躍進を遂げたレバンテだが、僅か数シーズン前には100年に及ぶクラブ史における最大の危機を迎えていた。
遡ること4年前の2007-2008シーズン。1部昇格2年目のクラブは深刻な経営難に陥り、選手や職員への給料未払いが何カ月も続くなど完全に首が回らなくなっていた。並行してチームはシーズンを通して最下位を独走し、4試合を残して2部降格が決定。2008-2009シーズンも経営難は続き、年間予算は前年度の3600万ユーロから2部でも最低額に近い700万ユーロまで激減した。
積もり積もった負債額は8000万ユーロに膨れ上がり、支払い不履行による強制降格はおろか、クラブ消滅の危機すら現実のものになろうとしていた。主力選手の多くは未払いの給料を諦めて他クラブへと移籍。行き先のない残留組は抗議の練習ボイコットを起こすこともあった。
このままでは2部残留すら危うい。混沌とした状態で開幕を迎えたチームはしかし、同夏に就任したルイス・ガルシア・プラサ前監督の尽力により崩壊を逃れ、及第点の8位で初年度を終える。2009年4月には当時33歳の若手実業家、キコ・カタラン現会長がゼネラルディレクターに就任し、倒産法を適用することで経営再建の第一歩を踏みだした。