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バンクーバー五輪で感動はしたが、大会運営を過去と比較すると……。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2010/03/06 00:00
バンクーバー五輪で感動はしたが、大会運営を過去と比較すると……。
バンクーバー・オリンピックが終わり、メダリストが帰ってきても、日本はまだオリンピック熱が冷めやらない。
ただ、オリンピックが終わってからやらなければいけないのは、開催地の「運営能力」の評価である。
運営にはその国のお国柄が出る。発想、プライド、国力。
ひいては他国の運営を考えることが、将来、もし日本でオリンピックを開催することになったときの重要なヒントになりえる(私が生きているうちに日本でオリンピックが観られるかどうかは、はなはだ疑問だが)。
さて、まずは観戦者にとって重要な「足」から始めることにしよう。
悲喜こもごものバンクーバー五輪交通事情。
これまで最悪の体験はアトランタ。市内の宿泊施設が貧弱で、郊外に泊まらざるを得ず、しかも市内への交通がしっかりと確保されていなかった。車社会のアメリカだと、こういう事態になる。その点、バンクーバーはイギリス文化圏でもあり、鉄道が発達していて移動はしごく便利だった。
それどころか、今回はバンクーバーのダウンタウンに滞在したので、アイスホッケー会場には歩いて行けたほどだ。
オリンピックでは、その国の国技の会場を一等地に持ってくる傾向が強い。カナダでもっとも人気のある種目はアイスホッケー。今回の会場、「カナダ・ホッケー・プレイス」はダウンタウンの南にあり、駅からは近いし言うことなし。
ただ、この会場、いつもは「GM(ジェネラル・モータース)プレイス」と呼ばれているのだが、大会スポンサーとバッティングするので、名前が変更されていたのが興味深い。
さらには、オリンピック期間中の公共機関の運賃はタダ。ただし、これは基本。アトランタや北京では駅でチケットの提示が必要だったが、バンクーバーではそれさえもほとんど要らないくらいだった。いちいち乗車切符を買う必要もないので、駅での混雑解消も簡単で、しかも整列乗車も自然に行われており、このあたりは北京と大違い。
私が行ったオリンピックで、唯一、公共交通機関がタダでなかったのは長野だけだ。これは縦割り行政の負の部分が出てしまっていたのではないか。
唯一、バンクーバーでつらかったのはフィギュア会場への移動か。ダウンタウンからバスで20分ほど。あまり治安のよくない地域を通らざるを得ないのと、バス停から競技場までの距離が長かった。
それでも帰りは会場からダウンタウンまでのノンストップバスが出ていたのは、運営能力の高さを示していた。
一方、アルペンやノルディックの競技などが行われたウィスラーなど山岳地への移動は最悪だったという証言はどんどん入ってくる。今回はバンクーバーに腰を落ち着けると決めていたので、ウィスラー行きの評価はできないが、少なくともバンクーバー市内に限って言えば、トップクラスの評価をしていいだろう。