スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
パシュートは「平均の強さ」を競う。
日本人向きなのでソチでは金も?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNaoki Nakanishi/JMPA
posted2010/03/01 00:00
パシュートは「平均の強さ」を競う。日本人向きなのでソチでは金も?
スピードスケートのパシュートは、オリンピックの種目のなかでは異色である。
オリンピックで行われる競技は、採点競技は別として、「誰がいちばん速いのか?」とか、「誰がいちばん強いのか?」ということを世界中から腕自慢が集まってきて決めるから面白い。
もちろんパシュートも、速さを競うのには変わりないのだが選手3人の「平均」を比べるところが面白い。
今回、日本女子チームは銀メダルを獲得したわけだが(本当に惜しかった!)、ご覧になった方は分かる通り、ムチャムチャ速い選手がひとりいても、パシュートでは勝てない。
タイムは3番目にゴールした選手によって計測されるから、いかに3人が平均した力を(女子の場合は3分間あまり)発揮するかが求められる。
パシュートはプロ的な発想を持ち込んだ種目。
スポーツの世界で、平均した力を競うのは実は「プロ」的な考えである。
アメリカのメジャーリーグは162試合かけて力を平均化し、ペナントを争う。ノックアウト方式のトーナメントでは、競馬用語でいうところの「まぎれ(展開によって必ずしも実力通りの結果にならないこと)」が出るので、可能な限り試合数をこなすことで平均を競う。
パシュートは絶対的な速さを争うのではなく、中長距離の3人の平均的な能力を競うという発想が、プロっぽい。
様々なマネジメントが必要になってくるパシュート。
プロ的な発想の種目だと必要になってくる要素は、「マネジメント力」である。
・候補選手のうち、誰を試合に使うのか?
・3レースあるうち、選手の入れ替えをする必要はあるのか?
・レース中、風圧の抵抗を均等にするため先頭の選手を入れ替えるが――これも平均化の表れだ――このテクニックは練習を積み重ねていく必要がある
・自分たちのペースを守るだけでなく、相手の脚質によってペース配分をする必要がある
バンクーバーでは準々決勝のレースを取材したが、練習の段階からチームカラーが見えてくるのが面白かった。
練習とレースを見て、「強い」と思ったのはドイツだった。練習の段階から統率がとれており、レースでもイーブンペースをキープしていた。几帳面といわれる国民性が向いていたのかもしれない。