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パシュートは「平均の強さ」を競う。
日本人向きなのでソチでは金も?
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNaoki Nakanishi/JMPA
posted2010/03/01 00:00
パシュートは「平均の強さ」を競う。日本人向きなのでソチでは金も?
パシュートの見所はペース配分の妙である。
レース中のマネジメントで重要なのはペース配分だ。ドイツは長距離型の選手を起用していたため、後半追い上げるのが持ち味。決勝で日本が最後の最後、差されてしまったのは前半に貯金を稼ぐ中距離型の日本のアドバンテージが0.02秒分だけ足りなかったことになる。
ドイツは辛抱強く、自分たちのペースを守り、最後の最後、逆転を果たした。
反対に優勝候補のカナダが初戦で敗れたのは、地元開催がマイナスに働いたからと見る。レース会場はカナダのレースになると大歓声に包まれ、序盤、とかくペースオーバーになりがちだ。
カナダも最後にアメリカに逆転を許したが、観衆に後押しされて前半リードした分、後半の伸びを欠いた面があった。
結果的にドイツと日本という、ペースをコントロールすることに長けた2チームが決勝で対戦したのは必然だったと思う。
パシュートはペース配分に、国民性が表れやすいのが面白いところだ。
「平均」と「チームワーク」で日本のお家芸になる可能性も!?
パシュートで他に重要なのは、コーナーにおける先頭に立つ選手の入替だ。日本はムダがなく、限られた時間で密度の濃い練習をしてきたことがうかがえた。
この熟練の入替を見ていると、北京オリンピックにおける陸上男子400mリレーのことを思い出した。
4人のトップランナーの走力を単純に足しても、日本はトップ3に入らなかっただろう。しかしアメリカなどがバトンパスをミスした。アメリカの場合、ミスは偶然ではなく必然とも言えた。つなぎではなく、圧倒的な走力で勝とうとしているのだから、バトンパスのリスクが高い。
日本は400mを最速でつなぐことに焦点を合わせていた。
同じ匂いを、パシュートにも感じる。
今後、韓国がパシュートでも強化を進めてくるのは火を見るより明らかだが、日本は持久力と技術力、そして巧みなペース配分を心がけていれば常にオリンピックでメダルを争える位置につけるだろう。
4年後のソチでは小平、穂積が27歳、今回は出番がなかった高木が19歳。他にも有望な選手が出てくるだろうから、いまからメダルの計算をしたくなる。