チャンピオンズリーグの真髄BACK NUMBER
モウリーニョ監督が古巣と戦った日。
text by
杉山茂樹Shigeki Sugiyama
photograph byAFLO
posted2004/10/01 00:00
「スタンフォード・ブリッジ」で行われたチェルシー対ポルト戦後、記者会見場に姿を現したモウリーニョ監督は、2週間前に「パルク・デ・プランス」で見た時より、5歳ぐらい老けて見えた。二重まぶたの瞳は、顔が痩けたせいか、いっそう鋭く光り、白髪の量も心なしか増えたように思えた。
昨季、自ら監督としてチャンピオンズリーグ優勝に導いた古巣との因縁の対戦。それにまつわる質問には「それがフットボールさ」と、顔色一つ変えず答えたが、この日が彼にとって特別な日であることは明白だった。
リカルド・カルバーリョ、パウロ・フェレイラ両選手に加え、コーチングスタッフまで引き連れてチェルシーにやってきた。チャンピオンズリーグ優勝チームの心臓部を、優勝監督自らの手で剔り取った格好だ。大挙駆けつけたポルトサポーターは、全員とは言わないまでも、そんなモウリーニョに罵声を浴びせかけた。彼らは、僕が座る記者席の直ぐ脇に陣取っていたので、その光景を間近で見ることが出来たのだが、罵声を浴びせることが礼儀だと、理屈を超えて割り切る無理を感じずにはいられなかった。
モウリーニョは、チェルシー3-1の勝利を告げるホイッスルを聞くや、その場を立ち去った。引き上げてくるポルトイレブン、さらにはポルトサポーターが陣取るスタンドにも視線さえ送らず、サッと背中を翻すや、スタンド下に異常な速さで消えていった。
選手の方は「ノーサイド」していた。チェルシーベンチにいる元コーチの元に駆け寄り、肩を抱き合ったり、握手をしたり、笑顔で旧交を温めあう美しいシーンを、見る側に提供した。
モウリーニョが笑顔を見せたのは、記者会見後。それまで辛辣な質問を浴びせたポルトガル人記者団が、握手に駆け寄った瞬間である。貫禄のある
「DOZE(12)」というサッカー専門誌の編集長が、「お前も大変だな」といった調子で、モウリーニョの首を揉みほぐすようにスキンシップを図ると、彼の目は僅かに赤みを帯びたようだった。
モウリーニョは昨季、僕のインタビューにこう答えている。
「とりあえず来季はイングランドへ行きたい。各国でいろんなモノを、吸収してそれをいずれ持ち帰ってポルトガルの財産にしたい。外に出て何かを学んで帰るのが、昔からのポルトガル人の生き方なんだ。僕もそれに従いたいね」と、滅茶苦茶格好いい台詞を吐いている。その大航海時代にリーダー役として君臨したエンリケ王子航海王の現代版。ポルトガル人のあるご老人は、彼をそう評したが、若干キザで、飛ばし気味ながら、茶目っ気もあるナイスガイは、確かに従来の監督像を超えたスケールがある。
だが、イングランドでは今のところ、サッカーそのものの受けは思いのほか芳しくない。手堅い。地味。イングランドのアトラクティブなサッカーにはそぐわない等々がもっぱらの評判だ。実際この日の試合も、勝つには勝ったが、サッカーそのものはビクトール・フェルナンデス率いるポルトの方がずいぶん魅力的に感じられた。12月7日に、ポルトの「ドラゴン」で行われるリターンマッチは、大接戦が予想される。
そこでモウリーニョは、ポルトファンの前でどんな振る舞いを見せるか。片やポルトファンは、彼にどんな反応で迎えるのか。「それがサッカーというさ」で、丸く収まるのかどうか。他人の話ながら、興味深い。