野球善哉BACK NUMBER
ヤクルト浮沈の鍵を握る、
「田中世代」のエース候補。
~プロ4年目の増渕竜義~
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2010/02/17 10:30
この2年間、オーバースローとスリークォーターというふたつの投球フォームで試行錯誤している増渕竜義。故障もたびたびあって、なかなか一軍ローテーション定着にこぎつけないでいる
プロ野球キャンプの取材で、沖縄に来ている。
第3クールにさしかかった今は、ほとんどのチームが紅白戦など実戦的な練習に入り、チームの骨格作りを始めている。首脳陣はここから選手をふるいにかけるわけだが、巨人以外のすべてのチームに共通するのは、昨シーズンと比べて何らかの上積みがなければ、当然優勝もあり得ないということだ。たとえ、先発ローテや打順などの布陣が昨シーズンと同じであっても、そこに至るまでの過程に「競争」があるかどうかで開幕後のチームの伸びが変わってくる。そういう非常に重要な時期に、キャンプは差し掛かっていた。
前回のコラムで、キャンプ序盤の見どころは「新戦力」であり、さらに「エース」争い、あるいはポジションに「空き」が出れば、その争奪戦が繰り広げられるのも見ものであると書いた。もちろん他にも見どころはあると思うが、そういう意味で今回のキャンプで注目しているチームの一つが、ヤクルトスワローズである。あるポジションに「空き」が出たのだ。
「ポスト五十嵐」どころか投手陣全体の再建が急務。
昨季3位でシーズンを終えたヤクルトは初のクライマックス・シリーズ進出を果たしたものの、絶好調の前半戦に対して後半戦は一気に落ち込んでいくという落差の激しい成績で、大きな課題を残した。
さらにはセットアッパーを務めた五十嵐亮太がFAでメジャーリーグへ移籍。つまり、ポジションに「空き」が出たのだ。そうすると、注目すべきは五十嵐の穴を埋めるための人材探しとなるわけだが、ヤクルトの課題は「ポスト五十嵐」の発掘だけでは収まらない様子なのだ。
昨季、前半に快走したヤクルトが後半に入って大失速したのはピッチングスタッフが薄かったから。序盤の快進撃を支えた五十嵐、松岡、林という3人の勝ちパターンが崩れると実に脆いことが判明し、前半戦と後半戦の防御率の比較で実に1.0近くも数字を悪化させているのだ。3人の体力不足というよりも、彼らをサポートする他の投手が現れず、さらにシーズンを通して長期間戦える充実した戦力がなかった。その上に五十嵐が抜けたのだから事態は深刻である。
抜擢した若手が一人前に育たないヤクルトの投手陣。
ヤクルト投手陣のデータを改めて掘り起こしてみると、若手を入団早々から抜擢・起用する傾向があるにもかかわらず、そうした選手たちが安定するまで、つまり、チームの信頼を得るまでに成長しきっていないことが分かる。選手が一人前になった目安として「3年間」の安定した活躍とはよく言われる数字だが、先発であれ、中継ぎや抑えであれ、3年連続して活躍した選手がヤクルトには極めて少ないのだ。
3年以上、続けて活躍しているのは石川、館山の両輪だけで、2004年新人王の川島亮に至っては1年目がベストキャリアという始末。現実的には、ヤクルトの投手陣では押本らトレード組が活躍しているのが実情だ。編成方針としてはチームの弱点を補うという点で正しいものだが、逆にいえば、育成は成功していないということが言えるのではないだろうか。